近年、ハダカデバネズミやメクラネズミといった地下生活を営む齧歯類が、長寿命でかつがんを発症しないというきわめて興味深い特徴を持つことで注目されている。また、彼らから取りだした細胞も、老化しないでかつがん化しないことから、その特性が細胞レベルで備わっていることが明らかとなっている。本研究は、こうした彼らの戦略に学ぶことによって、老化およびがん化に対する新たな防御策を開拓することを目的とする。特に、ハダカデバネズミ細胞の特性と老化およびがん化の制御に関わることが示唆されているmTORC1シグナルとの関連性に注目して解析し、以下の成果を得た。 ハダカデバネズミ由来の線維芽細胞について、mTORC1シグナル関連分子の発現量、リン酸化などの翻訳後修飾を解析した。その結果、ハダカデバネズミ細胞では転写因子FoxO3aが恒常的に細胞核内に局在することが見出された。また、これと同様のFoxO3aの核内移行が、mTORC1の活性化因子p18の欠損細胞においても観察された。さらに、p18欠損細胞が、細胞増殖速度が極めて遅いことやがん遺伝子によるがん化に抵抗性を示すことなども明らかとなり、ハダカデバネズミ細胞の特性とmTORC1シグナルおよびFoxO3aが密接な関係にあることが明らかとなった。そこで、老化・がん化制御におけるFoxO3aの重要性をさらに検証するために、正常のマウス細胞に核移行型のFoxO3aを誘導的に強制発現する実験系を作製し、その細胞増殖や老化への影響を解析した。また、マウス個体レベルでの老化やがん抵抗性に対するFoxO3aの意義を検証するために、核移行型のFoxO3aを表皮細胞特異的に発現するマウスの作製にも成功した。現在その表皮組織における表現型の詳細な解析を進めている。
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