研究課題/領域番号 |
26640084
|
研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
上田 洋司 藤田保健衛生大学, 総合医科学研究所, 助教 (40416649)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | UBL3 / ユビキチン様タンパク質 / 翻訳後修飾 |
研究実績の概要 |
エクソソームは癌発症等により細胞から放出される小胞体であり、新たな細胞間コミュニケーションとして注目されているが、特定タンパク群のエクソソームへの輸送機構は不明である。申請者は新たな翻訳後修飾因子の探索を目的として、バイオインフォマティクス的な手法により、進化的に高度に保存されたUBL3を同定した。UBL3がユビキチンやSUMOのように翻訳後修飾因子として作用する事だけでなく、エクソソーム中へ輸送されている事も見出していた。UBL3の生理学的な作用を知るために、当年度において、申請者はUBL3-KO miceを用いた研究を行った。その結果、野生型及びUBL3 KO miceの血清からエクソソームを精製し、存在タンパク量が野生型に比べUBL3KOマウスでは減少していた。更に、野生型及びUBL3 KO miceから初代培養を行い、培地中に存在するエクソソームを精製した結果、同様の現象が観察された。精製したエクソソームを観察するために、血清から精製されたエクソソームに対して、電子顕微鏡による形態観察を行った。その結果、UBL3存在量自体がUBL3 KO miceでは減少している事が分かった。更に、UBL3抗体を用いた検出により、内在性UBL3もエクソソームに局在する事が分かった。これらの結果は、UBL3がエクソソームへ選択的に輸送するだけでなく、エクソソーム形成において、生理的な役割を持つ事を示している。エクソソームは細胞外へ放出される小胞体であり、エクソソーム内にはタンパク質、mRNA、miRNAが存在する事が知られている。それらエクソソームは再び細胞に取り込まれることで、エクソソーム中の分子が作用し、細胞内シグナルに影響を及ぼす事から新たな核酸医薬やタンパク医薬のデリバリー系への応用が期待されている。本研究成果は、エクソソームを介した新たな医療薬への応用が期待できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は、新しい翻訳後修飾UBL3化の発見、UBL3とエクソソームマーカーとの細胞内での共局在、エクソソーム分画でのUBL3検出などを行ってきた。当年度は、UBL3の生理的な機能解析を目的として、野生型マウスとUBL3 KO マウスからエクソソームをそれぞれ回収して、解析する事を計画した。 マウス血清からエクソソーム精製を行い、SDS-PAGEによる電気泳動を行い、タンパク質への蛍光染色剤であるSyproRubyによる染色行った。その結果、UBL3 KO miceでは野生型に比べてエクソソーム分画中の存在タンパク量が少ない事がわかった。更に、野生型マウスとUBL3 KO miceから臓器を摘出し、初代細胞培養を行い、培養液からエクソソームを精製した。初代培養細胞から精製されたエクソソームにおいても、同様にUBL3 KOマウスでも、エクソソーム中の存在タンパク量は減少していた。エクソソームの形態的な比較を行なうために、電子顕微鏡による実験系を立ち上げ、野生型マウスとUBL3マウスの血清からの精製エクソソームの比較を行った。当該年度の予定通り、UBL3 KO マウスから得られたエクソソームに対する解析は行なう事が出来たため、「おおむね順調」との自己評価を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の予定としては、これまでの研究成果を取りまとめ、科学雑誌への投稿を行なう。 また、平成27年度の研究計画として発案していた、UBL3結合分子の生理学的な意味と、エクソソーム形成への役割に対する研究を推進しさせる。どういう分子が、どのような反応系でUBL3と結合するのかを解明させる。 平成27年5月より、藤田保健衛生大学の共同利用施設へ新たに導入される質量分析機 (Theramo Scientific社、Orbitrap Fusion)などの裝置を積極的に利用し、野生型マウスとUBL3 KO miceから精製されたエクソソームに対して網羅的プロテオミクス解析を行なう事を考えている。この解析による、どういう分子が影響を受け、どういう分子が影響を受けないのかを網羅的に知る事ができる。影響を受ける分子のタンパク質配列での共通項目を探る事で、UBL3に依存したエクソソームへの輸送システムが理解できるのではないかと考えている。ここから得られた情報を駆使し、将来的には、医薬応用可能な人工エクソソームの創生を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
細胞分泌小胞に対するネガティブ染色による電子顕微鏡の技術確立に対して、予想以上に時間を要した。アダルトマウスから初代培養細胞の育成及び、初代培養細胞からの分泌粒子の精製等の実験条件の確立にも時間を要した。
|
次年度使用額の使用計画 |
当該年度は、電子顕微鏡観察に必要とされる各種試薬類を市販品に切り替え、スピードアップを図る。
|