研究課題
安定してゲノム情報を維持・継承するためには、M期に染色体が分配されるまでのあいだに姉妹染色分体間の結合をあまねく解消することが必要であり、それを実現している細胞機能の解明は必須課題である。しかし姉妹染色分体を形成する過程は、それを観ることの困難さから、未だ一定の見解がない。そこで本研究では、姉妹染色分体の結合を検出・測定する実験系を構築することを目的とした。平成26年度は以下の3項目を進め、姉妹染色分体間の分離を定量的に解析する方法論を確立した。1)2種類のdeoxyuridine誘導体により姉妹染色分体を別々に蛍光標識するプロトコールを作った。特に細胞毒性の少ない5-ethynyl-2-deoxyuridine (EdU) を用いることにより標識効率を著しく高くすることに成功した。2)三次元構築画像からの重複領域の抽出と、その体積比を算出するために、voxel (三次元空間での体積要素)信号強度のデータをもとに、同じ輝度値の表面を計算で求めて三次元モデルを構築する(surface rendering法)方法論を構築した。こうして得られた三次元構築画像について、緑蛍光と赤蛍光が重複したvoxelを抽出、染色体全体に対する体積を求めて、その体積比(% overlap volume)を計算した。3)姉妹染色分体結合の検出のためのダイナミックレンジを設定した。2)で構築した実験系を用いて、全染色体において、理論的に信号が完全重複する場合と全くしない場合を解析して、この方法で定量的に測定しうる範囲を検討した。これらの解析技術の開発により、姉妹染色分体間の分離について定量的な解析ができるようになった。
2: おおむね順調に進展している
計画した実験をほぼ全て行い、方法論を確立することができた状況である。
平成27年度は、確立した方法論を用いて、分裂期進行に伴う姉妹染色分体結合の解除過程を定量する。M期の前期、前中期、中期、後期を解析、% overlap volume値を求めることにより、姉妹染色分体間結合の解離動態を明らかにする。次いで、姉妹染色分体の結合を形成しているコヒーシンとカテネーションの関連性を検討し、M期の進行に相俟って、これらの2要素の解除機構を調べる手掛かりを得る。更に、クロマチン構造変換に関連する酵素群の機能阻害実験を行い、姉妹染色分体の結合を解消する分子機構に迫るる。DNAカテネーションを解除するトポイソメラーゼ(Topo IIα)、あるいは染色体凝縮を促進するコンデンシン複合体を不活性化してその関与を明らかにする。
解析の途中で顕微鏡光源に不測の故障があり、顕微鏡を用いる解析が著しく滞ってしまった。そのため、顕微鏡解析にかかわる経費を次年度に持ち越して使用する計画とした。
主として顕微鏡解析に供する細胞および細胞染色試薬を購入する予定である。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 4件) 図書 (1件) 備考 (2件)
細胞
巻: 47 ページ: 5-8
Nature Cell Biology
巻: 17 ページ: 未定
Molecular Biology of the Cell
巻: 25 ページ: 302-317
10.1091/mbc.E13-01-0020.
Surgery Frontier
巻: 21 ページ: 205-209
http://www.jfcr.or.jp/tci/exppathol/resarch_index.html
http://www.jfcr.or.jp/laboratory/index.html