研究課題/領域番号 |
26640094
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
松村 幸子 公益財団法人がん研究会, その他部局等, 研究員 (90414052)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | エクソソーム / 原子間力顕微鏡 / ナノ粒子 / 表面吸着 / 細胞外ベシクル |
研究実績の概要 |
エクソソームは細胞が放出するナノサイズのベシクルで、体液に大量に含まれ、核酸やタンパク質などの細胞由来の情報をもつことから、がんなどの診断や治療への利用が期待されている。しかし現状では特定のエクソソームを単離することは難しい。本研究では試料中の“エクソソーム”の全体像を把握し、グループ分けを行うことを目的として研究を進めた。 平成26年度は、エクソソームを二次元に展開して吸着させるための基板を作製した。基板の性質に応じてエクソソームが異なるパターンで基板に吸着することを期待し、表面の性質の異なる種々の基板を作製した。汎用性の高いガラス基板をもとに、シランカップリング剤による表面処理等を行い、親水/疎水性度と正/負の異なる基板を作製した。またガラスと性質の似た親水性基板としてマイカ(雲母)と、疎水性基板としてグラファイトも用いた。 がん細胞株の培養上清からエクソソームを回収し、平衡密度勾配超遠心によって精製した。各精製画分に含まれる粒子の数やサイズ、発現タンパク質を調べ、また基板に滴下し、原子間力顕微鏡(AFM)で吸着物を観察した。 エクソソームマーカーのタンパク質が発現している精製画分では、エクソソーム様のベシクルが基板に吸着しており、異なる基板表面に異なるパターンで吸着することが明らかとなった。正電荷をもつ基板には多数のベシクルが吸着したが、負電荷の基板では吸着量が減少し、また疎水的な基板では吸着が抑制される傾向が見られた。親水性基板では、マイカ上では一部のベシクルが平坦につぶれて広がって吸着していたが、親水化ガラス上ではベシクルの吸着そのものが抑制されるという興味深い結果が得られた。さらに基板に吸着した物質を見分けるためにラベル化を試み、抗体と金ナノ粒子を用いることで、基板表面にある分子への抗体の結合をAFMで見分けることができるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、表面の性質の異なる種々の基板を作製し、エクソソームが異なる基板に対して異なるパターンで吸着することを示すことができた。また、抗体と金ナノ粒子を用いることで、基板に吸着した物質をAFMで見分けることができるようになった。これらの結果は、試料中のエクソソームの全体像の把握とグループ分けを行うために、エクソソームの基板への吸着パターンを利用できることを強く示唆するもので、また基板上で個々のエクソソームの性質を見分ける基本的な技術を取得したことを意味している。平成26年度の成果をもとに平成27年度の実施計画を進めることが期待できることから、現在までの到達度を「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に作製した基板をもとに改良を行うのに加え、別の手法での基板作製を試みる。これらの基板に対するエクソソームの吸着挙動を調べる。また、対象とするエクソソームサンプルを増やし、精製画分や精製度、細胞株の異なるエクソソームサンプルに対して、それぞれどのような吸着パターンが得られるか調べる。基板上の個々のエクソソームの見分けを、抗体と金コロイドを用いて進めると同時に、他の手法でも見分けられないか検討する。エクソソーム試料の全体像の把握と理解を進めるために必要な基板と検出方法の組み合わせを検討し、エクソソームの検出/分離デバイス作製のための基盤技術の獲得を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、一部の基板作製を他施設で作製あるいは外部委託する予定であったが、技術的な問題があることがわかり平成26年度は実施できなかった。そのため、これにかかる「人件費・謝金」、「物品費」に未使用額が生じた。別の方法で作製した基板で目的の成果が期待できそうであったので、その作製と評価を先に進めたが、比較的安価に基板を作製できるため、当初予定より使用額が少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
基板の設計を見直し、平成26年度に実施できなかった基板作製を行うために未使用額を使用する予定である。新たに作製した基板と、平成26年度に作製した基板にも改良を加え、これらの基板を用いて、平成27年度の計画に従い、エクソソームの吸着挙動を調べる。どのようなエクソソームがどのような基板に吸着するのかを調べるため、エクソソームの検出法の開発も進める。
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