あらゆる体液には、細胞が放出したナノサイズのベシクル(エクソソーム)が含まれている。エクソソームには核酸やタンパク質などの細胞に由来した情報が含まれていることから、がんなどの疾患の診断や治療への利用が期待されている。しかし現状ではエクソソームの単離、精製は簡単ではなく、”エクソソーム”試料には様々な物質が含まれている。本研究では基板吸着を利用して“エクソソーム”を把握し、グループ分けを行うことを目的として研究を進めた。 平成26年度は、エクソソームを二次元に展開して吸着させるための基板を作製した。がん細胞株の培養上清からエクソソームを回収し、平衡密度勾配超遠心によって精製した。各精製画分に含まれる粒子の数やサイズ、発現タンパク質を調べた。次にこの溶液を作製した基板に滴下し、原子間力顕微鏡(AFM)で吸着物を観察した。エクソソームマーカータンパク質の発現が高い精製画分では、エクソソーム様のベシクルの基板への吸着が観察された。また作製した基板表面によってベシクルの吸着挙動が異なることが示された。次に、抗体と金ナノ粒子を用いて基板に吸着した物質をラベル化し、AFMで見分けられるようにした。 平成27年度は、異なる細胞株から回収したエクソソームを用いて、基板への吸着挙動の違いを比較した。その結果、基板上に吸着したエクソソームが著しく変形する細胞株があることがわかった。吸着時のベシクルの変形は、ベシクルの表面性状や固さを反映していると考えられ、溶液中のサイズ測定ではわからない情報が基板吸着によって得られることが示された。抗体と金ナノ粒子を用いて基板に吸着した物質をラベル化して観察した結果、ベシクル表面に発現している分子とベシクルの外にある分子を見分けることができた。
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