研究課題
がん特異的に分泌されるmiR-1246は、大腸がん患者血清中からも、高値で検出されることから、診断バイオマーカーとしての応用研究が展開されている(当研究グループと企業との連携研究)。一方、miR-1246は、エクソソームと非常に近い密度を有する複合体(もしくは膜小胞)として分泌されるものの、CD9や他のエクソソームマーカーとは局在ピークが一致しなかった。そこで、エクソソームおよび膜小胞の合成に必須なセラミドの合成阻害とmiR-1246の細胞外分泌との関連を検討した。その結果、miR-1246の細胞内量は、セラミド合成を阻害することで有意に上昇する一方、細胞外への分泌量は減少した。これは、エクソソームに内包されるmiR-21の場合と同様であり、miR-1246の分泌には、セラミド合成(脂質代謝)が必要だと考えられた。次に、エクソソームマーカーたんぱく質であるCD9、CD81、CD63抗体ビーズを用いて、miR-1246の濃縮を試みたが、マーカーたんぱく質の濃縮は見られたものの、miR-1246は濃縮されなかった。以上の結果から、miR-1246は、細胞内でのセラミド合成がその分泌には必要であるが、細胞外へは既知(典型的)のエクソソームとは異なる様式で放出されていることが強く示唆された。さらに、miR-1246が脂質膜に内包されているか否か生化学的な解析を行った。興味深いことに、miR-1246を含む複合体は、熱処理により簡単に構造が破壊されることが強く示唆された。したがって、miR-1246はたんぱく質・脂質と複合体を形成して細胞外へと分泌されていることが強く示唆された。また、この複合体は、エクソソームと類似の密度とサイズ(ゲルろ過による解析)を有していることから、既存のHDLなどとは異なる新規の複合体である可能性を見出した。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定では、がん特異的エクソソームのたんぱく質を網羅的に解析する予定だったか、miR-1246が既知のエクソソームとは、異なる分泌様式により細胞外へと放出されていることがわかったため、本年度はその分泌様式に関する検討を行った。非常に興味深い結果を得ており、新規の分泌複合体の同定も期待できる。さらに、エクソソーム画分から検出されるmiRNAを網羅的に解析し、膵臓がん、大腸がん、肺がん細胞におけるプロファイルを作成した。本年度解析したmiR-1246は、がん細胞から特異的に分泌されるものの、非がん細胞からは分泌されず、miR-1246が形成する細胞外分泌複合体ががん細胞特異的である可能性が考えられる。
予定通り、エクソソームへとmiRNAを輸送する細胞内複合体の存在を明らかにする。それと同時に、がん細胞特異的に分泌されるmiRNAの分泌複合体の違いを明らかにする。本年度の成果から、がん細胞特異的miRNA分泌複合体の存在が強く示唆されている。その複合体形成に必須なたんぱく質の同定を行うことと、miRNA複合体のがん細胞の特性維持に関する機能の詳細を検討する。最終的に、臨床検体等における解析も加え、がん特異的miRNA分泌複合体の生物学的意義を明らかにする。また、エクソソームmiRNAと複合体へと取り込まれるmiRNAの選別機構についても検討を加える。
当初は、たんぱく質の網羅的解析とsiRNAの合成を行う予定であったが、細胞外miRNAの解析から興味深い知見を得た。即ち、がん細胞がmiRNAを細胞外へと分泌するためには、既知の膜小胞に加えて、新規のmiRNA分泌複合体が必要であることを見いだした。本年度は、細胞外miRNAがどのような複合体によって、分泌されるのか、その複合体が新規複合体であるか否かの検討を、生化学・細胞生物学的に行ったため、網羅的解析およびsiRNAライブラいー作成のために使用予定であった予算の支出分がマイナスされた形となった。
次年度は、新規複合体とエクソソーム輸送複合体の単離を試みるため、質量分析によるたんぱく質の網羅的解析や、siRNAを用いた機能スクリーニング等を行う予定である。そのため、前年度繰越分の予算を質量分析およびライブラいー合成費用として支出する。また、細胞外miRNAの網羅的解析も、合わせて行う予定である。
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