研究課題
昨年度に引き続きmiRNAの分泌機構について検討を加えた。miR-1246は、エクソソーム画分へと濃縮されるmiRNAsの一つであり、大腸がん患者由来の血清エクソソーム画分へと濃縮される。当研究グループでは免疫科学的に、効率良く、かつ、簡便にエクソソームを濃縮することに成功した。しかしながら、miR-1246はその方法では濃縮できず、当該miRNAはエクソソームではなく他の複合体もしくは膜小胞に内包された形で細胞外へと分泌される可能性を見出した。各種がん細胞株のエクソソーム画分と内在性のmiRNA発現プロファイルを比較すると、miR-21など内在性の発現が極めて高く、エクソソーム画分でも検出されるmiRNAsとmiR-1246に代表される細胞内での発現はそれほど高くないが、細胞外で極めて高い発現が認められるmiRNAsは、異なるクラスターを形成することが示唆された。両クラスターの代表として、miR-21とmiR-1246を選択し、生化学的に細胞外複合体の特徴を検討した。その結果、miR-21は、RNA分解酵素やたんぱく質分解酵素の処理では分解されず、界面活性剤で前処理した場合でのみRNA分解酵素処理で分解されたことから、エクソソームを介していることが分かった。一方、miR-1246は加熱処理したのみでRNA分解酵素によって分解されたことから、miR-1246はエクソソーム以外の複合体によって分泌されることが示唆された。スクロース密度勾配遠心法の検討から、miR-1246分泌複合体はエクソソームと極めて類似の密度を有していた。興味深いことに、ゲルろ過クロマトグラフィーの結果、miR-1246分泌複合体は、エクソソームと明らかに異なる大きさであることが分かった。これらの結果から、miRNAは複数の経路によって細胞外に分泌されることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、miRNAの分泌複合体もしくはエクソソームへと特定miRNAを輸送する複合体の解析である。これまでの結果は、エクソソームへと輸送されるmiRNAは、細胞内で発現が高いことが重要である可能性が示唆された。一方、miR-1246など、特定miRNAsの分泌は、エクソソームではなく未知の複合体を介して行われている可能性が強く示唆された。エクソソームとその複合体を分離することは難しく、ゲルろ過クロマトグラフィーにおいても、カラムの選択を間違えると完全に分離することができない。分離分子量の異なる複数のカラムを用いて、エクソソームとmiRNAs分泌複合体の分離に成功した。本年度中に、miR-1246の複合体をエクソソームとは完全に分離する方法を樹立すれば、最終年度に質量分析によるたんぱく質の網羅的解析を行い、複合体の本体が明らかにできる。
150 mmシャーレ30枚からエクソソーム画分の濃縮を行う。画分を500 µlのPBSに懸濁し、ゲルろ過カラムにアプライし、miR-1246複合体とエクソソームの分離を行う。さらに、複合体が局在するフラクションを濃縮し、SDS-PAGE用のサンプルを調整する。電気泳動にてたんぱく質を分離したのち、1レーンあたり48のゲルスライスを作成する。それらをトリプシンで消化した後。質量分析によりたんぱく質の同定を行う。コントロールとしてmiRNAが検出できないフラクションとエクソソームのフラクションも質量分析を行う。得られたデータから、エクソソーム画分に含まれず、miR-1246が検出されるフラクションに特異的な因子を抽出する。それらのsiRNAを作成し、各々をノックダウンした際の細胞外miR-1246の検出量を、通常培養時と比較し、分泌が抑制される因子を同定する。候補因子の抗体を入手し、細胞内局在の解析を行う。また、cDNAをクローニングし、免疫沈降法によりmiRNAもしくはその前駆体との相互作用を確認する。さらに、候補因子の臨床検体における発現解析を行い、臨床情報を利用し、臨床的意義の検討を行う。がん細胞において、当該因子のノックダウンが、がん細胞の形質維持に関連するか否かの検討も行う。動物モデルを用いて、当該因子の抑制によりがん細胞の増殖阻害が可能であるか検討する。また、特定miRNAsの分泌と発がんとの関連を解析するため、正常細胞へと当該因子を導入し、誘導型安定発現細胞株を作成する。同時に、分泌複合体に取り込まれるmiRNAを複数導入し、miRNA生合成過程のどの時期に複合体へと取り込まれるか検討を行う。細胞の形質転換に及ぼす影響を検討する。これら一連の解析から、miRNA分泌複合体とがん病態誘発との関連を明らかにする。
本年度は、プロテオームによる複合体タンパク質の解析を予定していたが、実績にも記した通り、がん細胞から特異的に分泌されるmiRNAは、エクソソームではなく、他の複合体であることが強く示唆されている。そこで、その複合体の全容を明らかにするため、まずはエクソソームと完全に分離する必要があると考え、その方法の樹立を行った。それらの実験には、当研究室で所有している器具や試薬の使用が可能であったため、研究費は次年度(最終年度)のプロテオーム解析に使用することとした。実験は難航したが、予定通りにエクソソームと標的複合体を完全に分離することに成功した。下がって、最終年度は繰越し金でプロテオーム解析と標的分子の機能解析を行うこととする。
培養細胞の培養上清から、エクソソーム画分を調整し、それをカラムクロマトグラフィーによりさらに、エクソソームと標的複合体を分離する。標的複合体が局在するフラクションを重点的に質量分析のサンプルとして、解析を行う。繰越し金は、この実験に必須であり、プロテーム解析の試薬代や大量培養の培地・血清代金として使用する。これらは、当センター内で実施するため、外注するよりも、安価に実施することが可能である、また、質量分析に供するサンプル調整のために、分離カラムやそれらの試薬を別途、購入しコンタミネーションの少ない状態での実験が必要となる。そのために必要となる器具・試薬一式を購入するために、繰越し金を使用する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
J Thoracic Oncol.
巻: 10 ページ: 1037-1048
10.1097/JTO.0000000000000560.