研究実績の概要 |
近年、がん治療における免疫反応の重要性が以前にも増して認識されるようになって来た。そのひとつとして、がんに特異的に発現する抗原を標的としたがんワクチンがあげられる。しかし、多くのがんワクチンが開発・報告されている一方で十分な効果を示した報告はいまだ認められない。その原因として、腫瘍による免疫逃避機構の理解やアジュバントを始めとするがんワクチン増強の分子メカニズムの理解が完全ではないことがあげられる。我々は最近、がんワクチン効果において非常に興味深い特徴を持つがん細胞亜株を樹立した。乳がん細胞株4T1のうち、従来世界において広く使用されてきたATCCより入手可能な乳がん細胞株(4T1-ATCC)にはがんワクチン効果は見られない。一方、我々がサブクローニングした株(4T1-Sapporo株)を放射線照射した後野生型マウス生体に投与すると、その後4T1の生着を許さなかった。一方、ヌードマウスで同じ実験を行うとこの効果は見られなかった。即ち、T細胞依存的に強いがんワクチン効果を有する細胞亜株であることが判明した。我々はこれらの細胞株の分子発現を比較検討することにより、がんワクチンの効果増強に関するメカニズムが明らかになる可能性があると考えた。現在までに、これら二つの細胞株間においてマイクロアレイを用いた網羅的遺伝子解析を行い、4T1-Sapporo株に強く発現している分子を5つ以上同定した。それらの分子は、Thbs3、NCAM1, Cyp1b1, Oas1a, である。また、4T1-Sapporoを生体に接種した後の免疫学的変化を調べた。すると、所属リンパ節の優位な増大、CD8T細胞中のCD69発現の上昇、また顆粒球の増大が認められた。今後はこれらの免疫学的変化をもたらした分子を特定して行く予定である。
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