研究課題/領域番号 |
26640103
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
中村 貴史 鳥取大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70432911)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | がん / ウイルス療法 / 遺伝子治療 / トランスレーショナルリサーチ |
研究実績の概要 |
癌は日本における死亡原因でもっとも多い病気であり、特に現行の治療法に対して極めて高い抵抗性を示し、容易に他臓器に転移する難治性進行癌に対する新規治療法の確立が望まれている。癌ウイルス療法は、ウイルスを癌細胞に感染させ増殖溶解させることで、直接癌細胞を破壊する癌治療法である。これまでの研究において、癌細胞特異的に増殖し破壊する遺伝子組換えワクシニアウイルスMDRVVの開発に成功した。そこで本研究の目的は、このspecific(癌組織に特異的)な効果に加え、1)ウイルスの形態形成と感染の制御に基づくウイルス腫瘍集積性の向上、2)ウイルスと生体免疫反応の制御に基づく抗腫瘍免疫の誘導・増強により、転移した癌も標的破壊できるようにsystemic(全身的)な効果を併せ持たせることである。 目的1)に関しては、昨年度、ウイルス膜蛋白を改良した形態形成制御型MDRVV由来のEEV(細胞外性被覆ウイルス)は、改良しないMDRVV由来のEEVよりも優位に中和を逃れていることがin vitroの解析結果より示された。そこで本年度は、ヒト卵巣癌細胞を用いて腹膜播種モデルマウスを構築し、ウサギ抗ワクシニア血清の投与により擬似的な免疫保持状態となることを確認した。このマウスモデルを用いて、ウイルス膜蛋白の改良より、腫瘍細胞におけるEEVの産出性と免疫回避能を増加させ、転移した腫瘍への集積性と抗腫瘍効果を向上させるかどうかを検証中である。目的2)に関しては、マウス大腸癌細胞株MC38を同系C57BL/6マウスの両側の皮下に移植した担癌モデルマウスにおいて、生理食塩水、MDRVV、又は26年度で作製した各免疫制御型MDRVVを右側の腫瘍にのみ投与した結果、インターロイキン12を発現するように組込んだMDRVV-IL12は、投与した腫瘍だけではなく投与しない腫瘍の増殖も、最も有意に抑制することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
目的1)に関しては、ウイルスのEEV産生の増加とEEV免疫回避能を同時に評価するためのマウスモデルを構築し、ウイルス膜蛋白の改良より、腫瘍細胞におけるEEVの産出性と免疫回避能を増加させ、転移した腫瘍への集積性と抗腫瘍効果を向上できるか否かを評価している。本年度の計画はマウスモデルを用いた評価を終了させる目標であったが、補助事業の目的をより精緻に達成するため、本補助事業の研究期間内で新たなマウスモデルを構築した。それゆえ、本年度内に完了までには至らなかったので、次年度に継続して実施する。 目的2)に関しては、各免疫制御型MDRVVの中で最も抗癌効果を発揮するMDRVV-IL12を決定したので、順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
目的1)に関しては、ヒト卵巣癌細胞を用いて腹膜播種モデルマウスを用いた抗腫瘍効果(腫瘍発育抑制効果と生存期間延長効果)、及び安全性の評価を完了させる。又、事前にワクシニアウイルスによって免疫したC57BL/6マウスに、マウス卵巣癌細胞を移植した同種同系移植モデルを構築し、免疫存在下でのEEV遠隔感染能を同様の手法によって比較検証する。 目的2)に関しては、形態形成制御と免疫制御を併せ持つ次世代型MDRVVによる抗癌効果(腫瘍への集積性および抗腫瘍免疫)の増強を、形態形成制御型MDRVV、又は免疫制御型MDRVVと比較検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
補助事業の目的をより精緻に達成するため、本補助事業の研究期間内でヒト腫瘍細胞株を用いた新たな担癌モデルマウスを構築した。 本補助事業期間を延長する理由は、このモデルマウスを用いて、癌特異的かつ全身的な抗癌作用を併せ持つ遺伝子組換えワクシニアウイルスの治療効果を検証する追加実験の実施、その研究成果の特許申請、学会発表および論文投稿のためである。
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次年度使用額の使用計画 |
消耗品としての試薬は、抗体、及び生体イメージングのための発光基質であるルシフェリンなど動物実験に関するものが主となり、40万円を計上する。消耗品としてのプラスチック器具は、動物に移植する癌細胞の大量培養や解析のために関するものが主となり、30万円を計上する。又、実験用動物マウスは、35万円を計上する。旅費としては、研究成果発表のための国内旅費10万円を計上する。その他、研究成果発表のための学会誌投稿料15万円を計上する。
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