癌は日本における死亡原因でもっとも多い病気であり、特に現行の治療法に対して極めて高い抵抗性を示し、容易に他臓器に転移する難治性進行癌に対する新規治療法の確立が望まれている。癌ウイルス療法は、ウイルスを癌細胞に感染させ増殖溶解させることで、 直接癌細胞を破壊する癌治療法である。これまでの研究において、癌細胞特異的に増殖し破壊する遺伝子組換えワクシニアウイルスMDRVVの開発に成功した。そこで本研究の目的は、このspecific(癌特異的)な効果に加え、1)ウイルスの形態形成と感染の制御 に基づくウイルス腫瘍集積性の向上、2)ウイルスと生体免疫反応の制御に基づく抗腫瘍免疫の誘導・増強により、転移した癌も標的破壊できるようにsystemic(全身的)な効果を併せ持たせることである。 最終年度である本年度は、ヒト卵巣癌細胞の腹膜播種モデルマウスにおいて、ウサギ抗ワクシニア血清の投与により擬似的な免疫保持状態を作出した。本モデルにおいて、MDRVVのウイルス膜蛋白を部分的に欠失させたMDRVV/ΔSCRは、腫瘍細胞におけるEEV(細胞外性被覆ウイルス)の産出性を増加させるとともに、そのEEVの元来有している中和抗体からの免疫回避能力を向上させることで腫瘍集積性を向上させ、その結果、抗がん効果を増強させることに成功した。加えてマウス大腸癌細胞株MC38を同系C57BL/6マウスの皮下に移植した担癌モデルマウスにおいて、そのMDRVV/ΔSCRの抗癌効果は、NK細胞を活性化する・Tリンパ球に作用しTh1タイプの免疫反応を誘導し腫瘍に対する細胞性免疫を増強するIL-12を発現するように組込むことで、さらに増強することを実証した。以上より、specific(癌特異的)な効果とsystemic(全身的)な効果を併せ持つ癌ウイルス療法の新戦略を確立した。
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