研究課題
ポリ(ADP-リボシル)化(PAR化)は蛋白質に大きな物性変化を与える翻訳後修飾である。PAR鎖はヘテロに分岐し、厳密な修飾コンセンサス配列が不明なため、PAR化蛋白質の同定やその制御機構の解明は困難であった。我々は、タンキラーゼとよばれるPAR化酵素(PARP)のアンキリン領域に結合する蛋白質の多くがPAR化を受けることを見出してきた。本研究では、タンキラーゼのアンキリン領域に結合し、PAR化を受ける蛋白質TBP-1のがん浸潤への寄与とその分子機構を解明することを目的とする。我々は昨年度、ヒトがん細胞HT1080およびHeLaにおいて、TBP-1の枯渇が細胞運動を亢進させ、TBP-1の過剰発現が細胞運動を鈍化させることを見出した。TBP-1の免疫沈降複合体の質量分析によりアクチンフィラメントの動態制御因子Xを同定し、Xが細胞内でTBP-1と複合体を形成していることを確認した。これらを踏まえて今年度、TBP-1もしくはXの枯渇細胞では、Rho-ROCK-LIMK経路依存的なコフィリンのリン酸化(不活性化)に伴うかたちで、アクチンフィラメントの形成が強化され、細胞運動能が亢進することを突き止めた。重要なことに、アクチン重合制御因子であるコフィリンのリン酸化は、タンキラーゼの過剰発現によっても誘導され、タンキラーゼ阻害剤によって抑制された。マトリゲル浸潤アッセイにより、TBP-1の発現が細胞の浸潤能と負の相関を示すことがわかった。IRB承認のもと、臨床がん患者由来の組織切片を用いてタンキラーゼおよびTBP-1の発現を調べた。その結果、タンキラーゼの発現には有意な変化は認められなかったが、膵がんの浸潤部ではTBP-1の発現が有意に低下していることが明らかとなった。以上の結果より、TBP-1の発現異常は細胞運動を亢進させ、がんの浸潤を促進させる可能性が示唆された。
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