研究課題
ファイトプラズマ(Phytoplasma属細菌)は、植物の細胞内に寄生する病原微生物であり、世界中で多くの作物栽培に被害を与えている。本研究は、ファイトプラズマのゲノムデータを活用することで、ゲノムにコードされる遺伝子の中から、宿主をコントロールする因子を同定し、その作用機作を明らかにすることを目的としている。ファイトプラズマは細胞内に寄生し、ペプチドグリカン等の細胞壁を持たないため、分泌されたタンパク質は宿主細胞質で直接的に機能する。そこで、宿主を制御する因子の候補として、分泌シグナルを持つタンパク質に注目した。ファイトプラズマは植物や昆虫に感染する際に、それぞれの宿主に合わせて自身の遺伝子発現を変化させることが示唆されている。昆虫内で働く因子は昆虫感染時に、植物内で働く因子は植物感染時に特異的に発現する可能性が考えられるため、この網羅的な遺伝子発現データも参考にして候補遺伝子を選抜した。タマネギ萎黄病ファイトプラズマ(Candidatus Phytoplasma asteris)のゲノムにコードされる分泌タンパク質を恒常的に発現するシロイヌナズナ形質転換体を網羅的に作出した結果、花器官の異常を誘導する因子Phyl1を同定した。植物の花器官分化はABCEクラスのMADS-box転写因子群(MTFs)の発現パターンにより決定される。酵母ツーハイブリッド法により解析したところ、PHYL1とクラスAおよびEのMTFs(AP1, SEP3)との相互作用が観察された。またAP1やSEP3により正に制御されるクラスBのMTFsの発現量もPHYL1発現時には減少していた。以上より、PHYL1はクラスAおよびEのMTFsを標的に結合・機能阻害することにより花器官の葉化を誘導すると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、ファイトプラズマのゲノムにコードされる遺伝子の中から、宿主をコントロールする因子を同定し、その作用機作を明らかにすることを目的としている。平成26年度は、ファイトプラズマゲノムにコードされる分泌タンパク質を宿主内で過剰発現させ、宿主側の応答や表現型をモニターすることで、宿主を制御する因子をスクリーニングすることを目標としていたが、花器官の異常を誘導する因子Phyl1を同定することに成功しており、達成度は順調であるといえる。また、PHYL1とクラスAおよびEのMTFs(AP1, SEP3)と相互作用することを示す結果も得ており、宿主をコントロールする作用機作についても一部明らかにすることができた。
前年度に引き続き宿主をコントロールする因子をスクリーニングするとともに、前年度同定した宿主制御因子Phyl1が、ファイトプラズマ感染宿主内において発現していることを、ウェスタンブロットや免疫組織学的解析により確認する。また、Phyl1による宿主制御の分子メカニズムを明らかにするために、宿主因子との相互作用に必要な領域の特定や、蛍光タンパク質再構成法(BiFC法)を用いて細胞内での相互作用を検証する。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (4件)
Scientific Report
巻: 4 ページ: Article 4111
10.1038/srep04111
Plant J.
巻: 78 ページ: 541-554
10.1111/tpj.12495
J. Gen. Plant Pathol.
巻: 80 ページ: 210-221
10.1007/s10327-014-0512-8
Plant Cell
巻: 26 ページ: 2168-2183
10.1105/tpc.113.120535
FEMS Microbiol. Lett.
巻: 361 ページ: 115-122
10.1111/1574-6968.12620.
巻: 4 ページ: 7399
10.1038/srep07399.