研究課題/領域番号 |
26640120
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
笹川 洋平 独立行政法人理化学研究所, 情報基盤センター, 上級センター研究員 (10404344)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エピゲノム / トランスクリプト / シングルセル |
研究実績の概要 |
ゲノムDNAのメチル化やクロマチン構造の変化などエピゲノム状態の変化が及ぼすRNA量への影響は未だに理解されていない部分が多い。これまでの方法ではエピゲノム状態とRNA量はそれぞれ細胞集団で測定されており、平均された情報同士の関連性比較になり、同ゲノム上のエピゲノムのパターン情報と遺伝子発現量の1細胞ごとの対応関係が消えてしまい、因果関係を解析できない。1細胞から両者の情報を同時に測ることでより詳細な解析が可能となり転写の深い理解につながると期待される。 本申請課題では転写産物量(蓄積したRNA量)とエピゲノム情報(DNAメチル化などDNA情報)を1細胞から同時に測定するための次世代シーケンサーを駆使した1細胞マルチオミックス技術を確立する。そのためには、1細胞でエピゲノム状態を捉える方法、並びに、RNA量を定量する方法を単独で確立するとともに、両者を1細胞から同時に計測するための技術の確立の3つのパートを推進する。 今年度は4つのことについて進めた。①1細胞のクロマチン状態を計測するために、1細胞レベルでNucleosome patternが出現し、なおかつRNA情報得るために必要な、RNAの逆転写反応も同時に起きることを確認した。②エピゲノム状態を計測するには、断片化したdsDNAを高効率でシーケンスライブラリDNAに変換する必要が有る。市販のキットを改編することで変換効率を4-5倍上昇させた。③ランダムプライマーベースの方法で新生RNAなどを含むnon-poly-A RNAの検出に成功し、RNA側の情報を拡充出来た。これまで1細胞mRNA-seqではnon-poly-A RNAを検出できなかった。④ランダムプライマーにindexをつける条件を検討し、DNA情報とRNA情報をわけるために、RNA側由来のcDNAにIndex配列をつける条件を見つけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請課題では転写産物量(蓄積したRNA量)とエピゲノム情報(DNAメチル化などDNA情報)を1細胞から同時に測定するための次世代シーケンサーを駆使した技術を確立することを目的にしている。そのために、1細胞でエピゲノム状態を捉える方法、並びに、RNA量を定量する方法の単独での確立。また両者を1細胞から同時に計測するための技術の確立の3つのパートにわけて研究を推進する。 今年度は、3つのパート全てを推進し、最終的な目的に対する技術的な難しさの把握・それぞれのパートの相性・重要条件の開発に成功した。概ね順調に進んでいると考えられる。以下、判断の材料となった結果概要を示す。「エピゲノム状態」DNA分解酵素を用いて得た断片化DNAをシーケンスすることで、クロマチン状態を計測することができるが、1細胞には未だ適応できていない。理由としては、2 copy以下しか無いターゲットDNAをシーケンスライブラリDNAに変換する効率が、一般的に数%しか無いことが問題である。今年は、簡便な定量方法を用いた結果、数十%以上になる条件を見つけた。クロマチン状態を1細胞で計測しうるレベルに大きく近づいた。またRNA量を同時に計測する条件で、Nucleosome patternを出す条件を見つけた。同時計測への足がかりとなった。[RNA量] 新生RNAを計測することができれば、1細胞マルチオミックス技術の価値が上がる。そのため、ランダムプライマーベースの1細胞RNA-seq技術を開発した。Quartz-Seqと同等以上の性能を示し、新生RNAを含むnon-poly-A RNAの検出に成功した。[同時計測] RNAとDNAを情報科学的に分けるために、Index配列をRNA側につける条件を検討した。逆転写反応を阻害しない範囲で、Indexをつける条件を見つけ、同時計測のための下準備が出来た。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、引き続き1細胞でエピゲノム状態を捉える方法、並びに、RNA量を定量する方法の単独での確立、また両者を1細胞から同時に計測するための技術の確立の3つのパートにわけて研究を推進する。 エピゲノム(Nucleosome pattern)の1細胞での計測に関しては、ライブラリ作製効率の限界を見極め、実際の1細胞を使用してシーケンス解析をしたい。DNAのメチル化も重要なエピゲノム情報であるが、DNAメチル化の前処理が非常につよい試薬を使用するため、以下2点が重要なポイントになる可能性が高い。1. DNAメチル化の前処理をするとRNAも壊れてしまうので、予めRNAとDNAを物理的に分ける技術の開発が効果的である。核と細胞質でわけるという可能性も考慮する。2. DNAメチル化の前処理後、精製が必要であるが精製ロスが非常問題になる可能性がある。精製条件を見つけるともに、超微量な空間での反応できるのか確かめたい。これにより反応後のサンプルを精製なしで次の反応に持って行くことが出来る可能性がある。 RNAとDNAの同時検出に関しては、RNAをIndexつきcDNAに変換する技術で同時測定が可能なのか、実際の細胞を用いてシーケンスまでトライしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度はシーケンス解析等の高額な解析が必要となることが予想されたため、可能な額を翌年度分として請求した。
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次年度使用額の使用計画 |
シーケンス解析の前処理試薬として使用する。
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