研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)は、加齢に伴って軽い物忘れを初発症状として発症し、軽度・中等度・重度の臨床経過をとる脳の病気である。脳組織学には神経細胞の外にアミロイドが沈着する老人斑(SP)と神経細胞内の神経原線維変化(NFT)を2大特徴とする。本研究は、剖検時にSPとNFTの広がりと程度によって、神経病理学的に分類(Braak stage分類)された凍結脳を研究対象とした。同一個体のゲノムは臓器、組織、細胞を超えて同じと仮定すれば、AD病変の脳内進展は脳各部位におけるその時点の遺伝子発現変動を反映していると考えられる。AD病巣が不可逆的に拡大する過程に注目して、各Braak stage(正常―>重度:0, I, II, III, IV, V, VI)における脳部位の微小脳組織からマイクロRNAを抽出して網羅的に解析を行った。クラスター解析によって、嗅内皮質、側頭葉、前頭葉ごとに病巣の進展に伴って単純増加または減少する2群ならびにBraak stage IIIを境に増加から減少へまたは減少から増加に転ずる2群の合計4群に分かれた。マイクロRNAは微小な構造体(exosome)を形成して脳内を伝搬すると考えられ、伝搬先の細胞内での機能を推測するためにマイクロRNAがターゲットにするmRNAをデータベースから抽出した。これらのmRNAのAD脳における発現プロファイルを確認して、ターゲットmRNAの分解あるいは翻訳抑制が病巣進展にマイクロRNAがどのように関連するかを検討する段階に達した。微小脳組織でも多種類の細胞を含むので、単一細胞レベルにおける解析が今後の大きな課題である。
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