大腸菌のタンパク質合成系とコムギのシャペロニンCCTとを組み合わせることによって,大腸菌のタンパク質合成系を使いながらも真核細胞型タンパク質を正しくフォールディングさせる系を作れないか,試みることを目標として,実験研究を進めた.H27年度までは,CCTの8つのサブユニットのcDNAをナショナルバイオリソースプロジェクトから調達してそれぞれ発現を試みたが,残念ながら,tRNAを補充した大腸菌を使わないとほとんど発現しないことがわかった.これを踏まえて,H28年度は,すべての遺伝子をコドン最適化したものに置き換えてそれらの発現を試みること,及び,当初計画から変更して大腸菌無細胞タンパク質合成系に加える前提で,コムギ胚芽からCCTを精製することを試みた. その結果,発現を試みることができたサブユニットについてはすべて高効率に発現し,そのうちの少なくとも1つは,単独でも可溶性の状態で得られることを発見した.本来,8種のサブユニットが合わさって機能すると考えられているタンパク質であるから,単独で可溶性タンパク質として得られることには何らかの生物学的意義があるものと推測される.コドン最適化はH27年度に開発したCodHonEditorを用いて行ったので,そこで採用された方法論が一応正しいことを実証できたと考えている.また,発現ベクターとしても,H27年度に発表したSfiNXベクターを用いており,それが十分使えることを示したこととなった.同時に,多数の遺伝子を同時発現させるためには,大腸菌における発現量と遺伝子配列との相関に関して理論構築が必要と考えるに至ったため,その基盤となるモデルを発表した. 一方,CCT活性のあるコムギ胚芽由来タンパク質画分を得ることができたが,予想される1 MDaよりもかなり大きい複合体になっていることが判明した.今後,このまま無細胞系に加える実験を計画している.
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