研究実績の概要 |
近年の合成生物学の目覚ましい進展により、複雑な遺伝子回路を人工的に作成する要素技術はほぼ揃ったが、有用化合物の実用的な生産にはまだ大きな隔たりがある。有用化合物は、通常、多種の酵素が協調・連鎖して簡単な基質から順次合成されるが、個々の酵素の発現量の制御は難しく、まして、その空間的な配置の制御は殆ど考慮されていない。発現量を制御する方法は天然のタンパク質―DNA相互作用に依存していて、その個数が数種類と限られているため、より複雑な系へ発展の障害となっていた。また、連続する代謝反応を触媒する複数の酵素を空間的に隣接配置する恩恵は知られていたが、配置する仕組みが簡単でないため、実施例はごく限られていた。本研究では任意のDNA配列に結合するTALエフェクターに着目した。もしTALエフェクターにより個々の遺伝子の発現量の制御に利用できたならば、事実上、独立に制御できる遺伝子の数に制限がなくなるため、格段に複雑な系への発展が期待された。また、TALエフェクターとの融合タンパク質として各酵素を発現させれば、結合するDNAの構造と配列の制御により、酵素の配置を容易に制御できると考え、その可能性を探索した。抗マラリア薬剤の人工合成系系をモデル系として、試験管内で遊離のERG10, ERG13, tHMG1, NphT7と各基質を添加した13C-1H相関2次元NMRスペクトルにより、中間産物を個別に、かつ、数時間のオーダーで定量的に代謝速度を追える観測系の構築に成功した。しかしながら、遊離の酵素でうまくいった系をTALエフェクターとの融合酵素の系に乗せ換える段階で、いずれの遺伝子でも発現は見られなかった。細胞毒性などを考慮した緻密な発現系の設計が必要と考えられた。
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