研究課題
本研究プロジェクトでは、環境水から水圏生物のDNA(以下、環境DNA)を同定し、その検出量を基に野外生物の生物量を推定する、という新規性の高い生態学手法に取り組み、対象とするサケマス資源のみならず、広く野生生物保全モニタリングの革新的進歩に貢献することを目的としている。H27年度は、水産総合研究センター(現在、国立研究開発法人 水産研究・教育機構)の協力の下、同センターの管理する千歳事業所におけるサケマスふ化施設でのサケ稚魚飼育水採水を実施しつつ、得られたサンプルについて網羅的な解析を実施した。この施設でのサケ稚魚飼育水採水は2年目となるが、初年度は魚の成長と共に飼育施設が変化する問題があったため、H27年度より一部稚魚を本研究専用の飼育水槽に移し、より詳細な情報が得られるよう改良した。この結果、魚の成長に合わせてどのように飼育水中の環境DNA量が変化するのか、定量的に評価できることが確認されている。またH27年度は、野外における環境DNAの検出も本格化させた。他の研究プロジェクトと併せ、北海道内のサケ遡上が見込まれる河川における採水は100地点を上回る。特に重点化した千歳川においては上流・中流域を中心に7定点を定め、経年変化を追える体制を整えた他、サケ稚魚が降下する沿岸部においてもサンプリングを実施した。これらのサンプルについては現在解析中であるが、既に解析済みのサンプルからは期待されたレベルでのサケDNAが検出されている。H27年度の進化学会においては東北大の佐藤行人博士と共同で「環境DNA:NGSがもたらす生態情報を進化学にどう活かすか」と題したワークショップを企画し、学会内での環境DNA研究の啓蒙を図ると共に、本研究の結果の一部はこのワークショップ内で報告した。
2: おおむね順調に進展している
H26年度の課題であった、飼育実験における水槽間の移動の問題を、H27年度の飼育実験においては施設側の理解と協力を得て克服できた。これにより、受精卵から放流前の段階まで、同一水槽内での環境DNAトレースが可能となり、既に良好な調査結果が得られている。また、野外においてもサケ遡上河川を中心に多数の環境水採集が予定通り実施された。
今後は3年分の飼育実験、および昨年から実施している野外環境水の解析を進め、サケがいつどこにどれだけいるのか、サケの捕獲に頼らない新しい推定手法を確立する。またこれらの結果について国際学術論文として発表する他、学会等で報告し、広く非侵襲的水圏生物モニタリングの新たな手法として発展させていく。
共同研究者2名は当初、札幌で研究代表者らとのミーティングを行うための旅費として計上していたが、他研究費による出張時に打合せを行うことができた。そのため、未使用分を次年度の消耗品などの予算として使用する。
今年度は最終年度であるため、昨年度までに得られたデータ解析から必要となった追加データの取得、データのとりまとめ、学会発表、論文執筆等を行う予定である。そのため、主に、実験に係る消耗品費、発表に関する研究代表者とのミーティングにかかる旅費、学会発表にかかる旅費、論文発表にかかる諸費用として利用する予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
PLoS One
巻: 11 ページ: 1-18
10.1371/journal.pone.0149786
Journal of Applied Ecology
巻: 52 ページ: 358-365
10.1111/1365-2664.12392
Royal Society Open Science
巻: 2 ページ: 1-33
10.1098/rsos.150088