本研究は極限環境生物で保存されている共通したメカニズムであるクリプトビオシス現象を試験管レベルでシミュレーションを行い、常温ガラス化保存技術の開発に向けた基礎的研究を行う目的で3年間にわたり実施してきた。
初年度は、糖質とタンパク質を添加させたアガロースゲル乾燥前後のゲルネットワーク構造の状態変化を粘弾性測定や走査型電子顕微鏡などによって評価を行った。その後、加熱下で減圧乾燥を行い、アガロースゲルモデルのガラス化達成条件を求めることを最優先した。安定した熱分析データを得ることに時間を要したが、ガラス化のための基本データが得られた。2年目は、様々な糖質組成を変更したアガロースゲルに対するガラス化条件を突き止めるため、添加糖濃度と含水分量に応じたガラス化条件の熱分析データを網羅的に回収した。特に、常温減圧乾燥時でのガラス化条件を探索するため、水分量とガラス化との対応関係を把握した。ただし、LEAペプチドを添加したアガロースゲルのガラス化効果については評価が難しく、2年目終了時点での結論は持ち越された。最終年度は、LEAペプチド添加によるガラス化条件を可及的速やかに対処すべき課題として取り組んだ。具体的には、アガロースゲルモデルからタンパク質性のうずら卵の卵黄及び卵白ゲルモデルへ変更を行い、減圧常温乾燥と常温送風乾燥を実施した。試行の末、適正濃度のトレハロースとLEAペプチドを添加したところ、LEAペプチド濃度に応じたガラス化傾向が認められた。特に、LEAペプチドの添加効果は、卵黄モデルより卵白モデルでのガラス化効果が著しかった。また、アルテミアの卵殻を脱殻処理によって取り除き、膜浸透性を改善した上で、トレハロースとLEAペプチド添加による孵化率改善を調べたが、3年目終了時点までに明確な結論を引き出すには至らず、今後の課題として残した。
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