研究課題/領域番号 |
26650001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
廣瀬 哲郎 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 教授 (30273220)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ノンコーディングRNA / 核内構造体 / 種特異性 / エンハンサー |
研究実績の概要 |
本研究は、細胞核内で構造体形成を担うRNA分子の研究から派生したものである。まずヒト一番染色体の複数箇所に大規模なリピートクラスターを形成しているNBPF遺伝子由来の転写物が、核内構造体様のfociを形成していることを発見し、その役割の解明を目指している。NBPF遺伝子には、2つのエクソンと1つのイントロンからなる基本ユニットが繰返し存在しており、霊長類の進化途上で最も顕著に増幅した領域として報告されている。このNBPF遺伝子から転写されたRNAは、スプライシングを受けてタンパク質に翻訳されるmRNAを産生することが知られているが、本研究で注目しているRNAは、そのイントロン領域から産生されるncRNAである。これらのncRNAをRNA環状化を介した末端決定法によって調べたところ、スプライシングによって切り取られたイントロンRNAが核内fociに蓄積していることが明らかになった。一方、このイントロン領域のクロマチン修飾情報を見ると、この部分はエンハンサーのマークとしてよく知られているヒストンH3Me1が繰返しピークを作っていることが明らかになった。こうしたことから、NBPFイントロンから産生されたncRNAが核内foci中でエンハンサー様の機能を担っていることが予想された。そこで本年度は、この仮説を確かめるためにNBPFイントロンRNAを特異的にノックダウンする条件を検討した。さらにそうして得られたノックダウン株からRNAを抽出して次世代シーケンサーによるRNA-seq解析を実施し、NBPFイントロンRNAによって発現制御を受けている遺伝子を探索しようとしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年はエンハンサー様機能を有すると考えられるNBPFイントロン由来のncRNAの末端を正確にマッピングすること、さらにRNA―FISHによって検出される核内fociをより明確に検出できる条件を至適化すること、さらにNBPFイントロン由来のncRNAを特異的にノックダウンする条件を至適化すること、さらにノックダウン細胞由来のRNAを用いて、次世代シーケンサーによるRNA-seq解析を実施し、発現が変動する遺伝子を同定することを実施した。その結果、核内fociで検出されているRNAは、スプライシングによって切り出されたイントロン配列そのものが蓄積したものであること、さらに化学修飾を施した複数のキメラオリゴヌクレオチドによる核内ノックダウンによって、NBPFイントロンRNAを特異的にノックダウンすることに成功した。さらにIllumina次世代シーケンサーによって、コントロール細胞とNBPFイントロンncRNAのノックダウン細胞のRNAを用いてRNA-seq解析を実施する直前まで到達している。こうしたことから、NBPFイントロンRNAの解析に関する当初の予定に即した一定の進展があったと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では次世代シーケンサーによるRNA-seqを実施し、そこで得られたデータを精査し、NBPFイントロンRNAによって発現制御されている遺伝子を同定する。さらにその標的遺伝子の発現をヒトとその他の霊長類、さらには他の哺乳類動物種間で比較し、NBPFの増幅の度合いとの相関を検討する。一方でNBPFイントロンの効率的な過剰発現系を整備して、エンハンサーとしてRNA機能についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はこれまで既存の化学修飾オリゴヌクレオチドを用いたノックダウン条件の至適化などを行い、さらに次世代シーケンサー解析に向けたサンプル調整に終始していたため、ほとんど研究費を使用することなく研究を遂行することができたため。これは次年度に実施する次世代シーケンサー解析には、データ解析も含めて多額の外注費を計上する必要があることによる。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度に調整したNBPFイントロンncRNAのノックダウンの影響を次世代シーケンサーによるRNA-seq解析を実施し、そのデータを基にこのncRNAの種特異的な機能を明らかにしていく。
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