研究課題/領域番号 |
26650003
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小椋 利彦 東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (60273851)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 力学刺激 / エネルギー代謝 / 核内受容体 |
研究実績の概要 |
初年度は、MKL2ノックアウトマウスの完成を行った。当初、作製したES細胞からマウス生殖系列細胞への移転が見られず、再度、同じKOコンストラクトを用いて再挑戦したところ、KOマウス個体の作出に成功した。また、同時に、CRISPRを用いたゼブラフィッシュMKL2 KO個体の作製を行い、これついても成功し、翌年度に詳細に解析する準備が整った。また、いくつかの核内受容体と相互作用する因子の同定も行った。細胞、組織から蛋白質抽出液を調整し、PPAR、ERRと相互作用する蛋白質の同定を試み、複数の特異的バンドを特定した。また、この精製時に、代謝を調節すると証明されている複数の薬剤を加えた所、PPRA、ERRと薬剤存在下でのみ結合する因子があることを見つけた。この結果は、これまで臨床でも用いられてきた薬剤の新しい作用機序に迫るものとなり、翌年度、そのidentiyを決定することとなる。興味深いことに、この因子のいくつかは、通常細胞質に存在するもので、薬剤存在下で細胞質から核内へ移行する可能性をもっている。MKL2も、力刺激によって細胞質から核内にシャトルすることから、同様のメカニズムが代謝調節に普遍的に存在している可能性を示唆している。また、細胞に伸展、ずり応力等の力学刺激を印加して誘導されてくる遺伝子をマイクロアレーで網羅的に検索し、複数の新規遺伝子を同定した。この中には、代謝調節に関与すると思われものが含まれており、本研究の目的合致することから、翌年度、その機能解析を詳細に進めることとする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度、MKL2 KO マウスの作出が、ES細胞の段階で頓挫し、多少の遅れを見たが、再度挑戦することによって、MKL2 KOマウスの作出に成功した。このマウスは、本研究の要であることから、重要な進展であると考えている。また、本研究全体を俯瞰しても、大きなおくれになるとは考えられず、研究は順調に進展していると思う。加えて、本年度は、いくつかの核内受容体の相互作用因子の特定を進めたが、これについても一定の成果が上がり、特に薬剤存在下での結合因子の発見は、翌年度の研究に新しい展開をもたらすと期待できる。さらに、力刺激によって誘導される遺伝子についても複数、特定することができた。この中には、腱、骨など、運動器の発生、恒常性に関与するものが見つかり、運動が起こす反応をmimicするexercise pillの標的となる可能をもっている。当初、本研究では、exercise pillを代謝に特化して考えて来たが、軟骨、骨、腱などの運動器の維持は、運動に起因する力刺激によって維持されていると考えられている。無重力下の宇宙飛行士や寝たきり老人の骨/軟骨/筋肉萎縮を、このようなexercise pillで制御すれば、大きな意義があると思われる。 本研究では、Arid2、Svil に関しても機能解析を進めることとしているが、Arid2 に関してはすでにKOマウスを作製できており、翌年度、詳細に解析することができる。また、SVILについては Tbx2/MKL2の転写活性可能を弱める働きがあることがわかり、これに付いても、翌年度、詳細に検討する。
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今後の研究の推進方策 |
1)MKL2 KOマウスの解析を行う。特に、心臓、骨格筋について、TACによる圧負荷、運動による力刺激印加によって、糖、脂質代謝がどのように変化するか、正常マウスと比較しながらその全貌を明らかにする。この際、メタボライトの解析、遺伝子変化の特定を目指し、核内受容体の標的と考えられる遺伝子の発現変化と代謝変化に注目して解析する。2)核内受容体と相互作用する因子の精製を進め、複数の代謝調節薬剤との関係を視野にいれて、因子のidentityを決定する。この際、蛋白質を調整する細胞、組織を慎重に選択する(例えば、力学刺激印加/非印加のMKL2 KOマウスの骨格筋、心筋、肝臓など)。3)力刺激によって誘導される遺伝子のノックダウンをまず、ゼブラフィッシュで行い、その表現型を把握する。そして、代謝に変化が見られると思われる遺伝子については、代謝解析が容易なマウスへと系を変え、ノックアウトマウスの作出へと進展させる。また、骨、軟骨、筋肉、心臓等、力刺激が重要な役割をもつ組織の形成異常がないか、もれなく解析する。3)すでに作製したArid2 KOマウスについて、骨、軟骨、骨格筋、心臓に注目してその表現型を解析する。この時、血圧負荷や運動負荷を行い、循環器恒常性の維持、運動耐性に変化が無いかも検討する。4)SVILは、心筋、骨格筋において、サルコメアZバンドに局在し、また、核内にもあることが知られている。我々のデータ(SVILとMKL2の相互作用)を考慮すると、SVIL自身、力学刺激によってZバンドから核内へ移行する可能性を指摘できる。また、通常時、SVILがMKL2を細胞質に留め置くこと、その転写活性化能を負に制御することも考えられる。次年度は、これらの可能性を詳しく検証する。
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