研究課題/領域番号 |
26650005
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
岩渕 万里 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (40275350)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 核アクチン / 卵無細胞系 / 核抽出液 |
研究実績の概要 |
アクチンフィラメントの細胞内動態を再現するツメガエル卵無細胞系(N-EE: native egg extract)の調製法を確立し、これを用いて、精子クロマチンを基質に形成された核におけるアクチンの動態を調べた。その結果F-アクチンが時間経過とともに核に蓄積すること、また60分以降は一定密度となることがわかった。本研究では、N-EEで形成された核の核質を抽出して用いる予定だったが、N-EEでは従来の卵抽出液と異なりF-アクチンが発達し、それが微小管や膜小胞などと相互作用するために、従来の遠心分離法では形成された核と細胞質画分の分離が不充分であることが判明した。そこで、できるだけ純度の高い核質抽出液(N-NPE)を調製するため、超遠心分離後のいくつかの画分を組み合わせることで、核形成に必要な膜小胞を含みかつ細胞質由来成分を減少させることが可能となった。次に卵母細胞の核抽出物やN-NPE調製のために、緩衝液の検討を行い、核アクチンを多量に含む未成熟卵母細胞の巨大な核(GV)を摘出して緩衝液中で破砕し、Fアクチンが維持されない緩衝液やF-アクチン維持に適する組成の緩衝液を調製した。N-EEよりN-NPEを効率的に調製するため、無細胞系で形成されたF-アクチンの核内の構造および分布を調べた結果、核膜直下のラミナ層に高密度に、またクロマチン繊維の間隙に網目状に密に発達することがわかり、核F-アクチンを効率的にクロマチン繊維から分離する手法が必要となった。一方、N-EEで核の形成を誘起すると、N-EEによっては核がダンベル型に成長することが判明した。このような核ではF-アクチンはクロマチンと分離して蓄積することが示され、遠心破砕した核膜からF-アクチンを抽出可能であることがわかった。ダンベル型の核を高率で誘起する条件の検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
N-EEで形成された核を、細胞質F-アクチンやそれらと相互作用する微小管、膜小胞、色素粒などから効率的に分離して調製する方法を確立し、F-アクチンの構造維持に適した緩衝液を調製した。さらに、N-NPEを抽出するにあたり、核内F-アクチンの分布を詳細に解析した結果、当初の計画にはなかった、核内F-アクチンを核膜や核内クロマチンから効率的に分離することがN-NPE調製に必要となった。これにはN-EEにおいてダンベル型の核を形成させることが有効であることが判明したが、この形態を効率的に形成させる条件を確立する必要が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
精子クロマチンを基質に用いてN-EEで多数の核を同調性よく形成する系が確立されたが、核におけるF-アクチンの発達により、細胞質および核質の粘性が上昇すること、さらにF-アクチンと膜成分の親和性が高いことによると推定される細胞質の凝集体形成により、従来の遠心分離法では卵抽出液から核が単離されず、高純度の核質成分の調製が困難であることが判明した。その打開策として、N-EEを超遠心して、オルガネラやミトコンドリアなどの膜成分を沈殿させて除いた後で、さらに分画化して、アクチンを含む可溶性細胞質画分および核膜の形成に預かる膜小胞などの画分を組み合わせることを検討した。その結果、発達したF-アクチンを含み、回収可能な核を再構築できる卵抽出液の調製が可能であることが示唆されたので、まず、その調製法を確立する必要がある。その上で、核質度および核F-アクチン度の高いN-NPEを作製し、体細胞核の転写リプログラミングに用いる。一方、核におけるアクチンの重合度を高める方法として、核でF-アクチンの発達を促進する制御因子がつきとめられたことから、それを人為的に増加させることで核質におけるアクチン重合度の上昇を誘起することができるかを並行して検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
N-EEを出発材料としてN-NPEを得るためのプロセスに、研究計画にない条件検討が必要となったため、途中で計画を変更し、N-NPEの調製法をさらに改良した上でリプログラミングを行うこととしたため、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
N-NPEの調製法の改良とそれを用いるリプログラミングの検討を次年度に行うこととし、未使用額はその経費と成果発表に充てる予定である。
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