ツメガエル卵母細胞の核内において、発達したF-アクチンに依存して体細胞核の転写リプログラミングが誘起されることが報告された。本研究ではそれを試験管内で誘起できる卵無細胞系の開発を目指し、これまでに報告がないF-アクチンを保持する核質画分(N-NPE)の調製法に取り組んだ。まずアクチンフィラメントの細胞内動態を再現するツメガエル卵無細胞系(N-EE: native egg extract)の調製法を確立し、これに精子クロマチンを加え、形成された核にF-アクチンが時間経過とともに蓄積し、また60分以降は一定密度となることを明らかにした。一方、N-EEではF-アクチンの発達により、細胞質および核質の粘性が上昇すること、さらにF-アクチンと膜成分の親和性が高いためと推定される細胞質の凝集体形成により、従来の遠心法では卵抽出液から核が単離されず、高純度の核質成分の調製が難しいことが判明した。その打開策として、N-EEを超遠心してオルガネラやミトコンドリアなどを沈殿させ除き、さらに分画化して、アクチンを含む可溶性細胞質画分および核膜形成に預かる膜小胞画分を組み合わせることを検討した。その結果、発達したF-アクチンを含み、回収可能な核を再構築できる卵抽出液の調製が可能であることが示唆された。上記手法によるN-NPEの調製が予想以上に難航したため、代替案として、F-アクチン形成を阻害する条件で核質抽出液(NPE)を調製し、NPE調製後にアクチン重合阻害剤を除いたのち、N-NPEにおけるF-アクチンの形成を促進することとした。この系がまだ確立していないため、転写リプログラミング実験の実施には及んでいないが、並行して行っていた研究から核内F-アクチンの形成促進に関わるアクチン制御因子をつきとめることができた。これを用いて転写リプログラミングを誘起する無細胞系の確立が可能となることが期待される。
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