研究実績の概要 |
一般的に終末分化した細胞は他の細胞種に変化しないと考えられているが、限られた細胞種で脱分化・分化転換と呼ばれる現象が起こる。例えば、ニワトリ胚網膜色素上皮細胞 (RPE)は、脱分化を経てレンズ細胞へと分化転換する。iPSや卵母細胞への核移植は人為的に誘導される体細胞核リプログラミングであるが、脱分化・分化転換は生命現象としてのリプログラミングと言える。このユニークな細胞制御を支えるエピジェネティクスを知る目的で、RPEの脱分化・分化転換におけるエピジェネティクスをゲノム包括的に解析した。 8日令のニワトリ胚からRPE を単離した。そしてRPEをフェニルチオウレアとヒアルロニダーゼ存在下で培養し脱分化細胞を誘導した。RPEと脱分化細胞の核分画に対してChIP-seqを行い、脱分化過程におけるエピジェネティクス制御を解析した。転写活性化に関与するHistone H3K4me3が脱分化の過程でダイナミックに変化していることが明らかになった。脱分化過程でH3K4me3が消失する領域 (TFEC)や増加する領域(glioma pathogenesis-related protein1)が認められた。また、H3K4me3の減少がヘテロクロマチン形成に関わるH3K27me3の増加と連関する領域 (SOCS2, negatively regulate cytokine receptor signaling)、さらにH3K4me3の減少がH3K9me3の増加と連関する領域 (IRF5)が認められた。逆にH3K4me3の増加がそれぞれH3K27me3やH3K9me3の減少と相関する領域も認められた。以上から脱分化の過程で1) H3K4me3がダイナミックに変化すること、2) 各エピジェネティクス修飾のリクルートは非選択的というより、むしろ選択的に行われること、そして3) 各修飾の変化は連関していることが示唆された。
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