本研究は、細胞内から種々の染色体タンパク質を含んだ高次クロマチンをその構造を維持したまま精製し、AFMによる可視化解析および生化学的解析に供する技術を確立することを目的とする。26年度までに、出芽酵母に導入した環状DNAを、そこに結合するヌクレオソームや複製開始因子を含む複合体として精製・可視化することに成功したが、27年度は、染色体の部分領域を精製することを目指し、局所的に染色体上にビオチン化修飾を導入する実験をおこなった。 具体的には、複製開始因子であるSld3などのタンパク質にビオチン化ライゲースを融合させ、出芽酵母内で発現させる実験を行った。これにより、Sld3と空間的に近くに配置されているタンパク質がビオチン化されることが期待される。これまでに、融合タンパク質が細胞内で発現していることや、ストレプトアビジン固定ビーズによる精製で多くのタンパク質が共精製されていることが確認されている。今後、標的としている複製開始領域クロマチンが選択的に精製できているか等を精査し、また、Sld3以外のタンパク質をビオチン化ライゲースと融合させる実験も行うことで、本手法を様々な染色体領域を精製する手法として確立されることが期待される。 また、前年度までに精製法を確立した環状DNAについては、S期に同調させた酵母細胞から精製した標品の観察像では、巨大なタンパク質複合体がDNA上に観察されたものの、その複合体に含まれるタンパク質の同定には至っていない。そこで、比較対象として、再構成クロマチン上にS期に形成される複製ヘリカーゼであるCMG複合体を結合させた標品のAFM観察を行った。この画像と、前述のS期細胞から精製した環状DNA上のクロマチンの像とを比較することで、クロマチン上で複製因子が機能する分子メカニズムを解析できる系となる。以上の結果のように、クロマチン上での反応を可視化および生化学的に追跡する技術基盤の確立を行った。
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