幅広い真核生物が持つ分子量約1000万の巨大粒子ボルトは、主成分であるMVP(Major Vault Protein)が78個集まることで樽型中空の特徴的な基本骨格を形成する。半分のボルトは、39個のMVPが集合することでお椀のような形を形成しており、2つの半分のボルトが、お椀の縁と縁を合わせるようにして(向かい合ったMVPのN末端で)会合することで樽型の粒子を形成する。本粒子は、強酸性条件下では卵を割るように半分に割れることが知られており、この特性を活かしてpH依存で粒子の開閉を制御することができるようなナノカプセルを開発することができれば、DDS(Drug Delivery System)などの新規材料としても期待できる。本研究では、X線結晶構造解析による詳細な立体構造情報に基づいて新規ナノカプセルを開発することを目指した。先行研究により、MVP・N末端にロイシンジッパーを導入したボルト粒子(LZボルト)の昆虫細胞による大量発現系構築に成功し、非常に安定なLZボルトが高収量(野生型ボルトの15倍)で得られるようになった(特願2012-253031)。 本研究では、このLZボルトを基盤としたナノカプセルの開発に取り組むと同時にLZボルトの高分解能での構造決定を目指した研究にも取り組んだ。LZボルトの結晶はSPring-8のBL44XUでの回折実験で2.8A分解能の反射を示し、複数の結晶を用いてデータ収集を行った。現時点では4A程度のデータしか集まっていないが、今後、より多くの結晶を用いることで2.8A分解能のフルセットデータ収集を目指す。ナノカプセルの開発においては、溶液中のpHを弱酸性にしてから中性に戻すことでVPARP_INTの取り込みが確認できた。今後、より大きな物を内包できるよう、さらに粒子の改変を進める。
|