研究課題
低温電子顕微鏡による構造解析技術は近年飛躍的に向上した。しかし、標的としている超分子複合体が柔軟な場合、その分解能を上げることは困難である。超分子複合体を構成する個々の分子の構造がX線結晶構造解析などで明らかになっているにも関わらず電子顕微鏡による構造解析の分解能が十分でないため、満足なフィッティングができない例も少なくない。そこで、フィッティングしたい分子にGFPを改変したcpGFPを導入し、その余分な密度を同定することで、標的分子の位置と方向を決定するためのラベルとして用いるための基礎技術の開発を試みた。本研究では細菌のべん毛モータの回転子であるべん毛基部体を構成するFliMを用いて、cpGFPラベル化実験を行った。FliMは332残基からなる蛋白質で、44-226残基までの構造がX線結晶構造解析によって明らかにされている。cpGFPを標的分子の途中に導入しても両者の立体構造が阻害されないようにするため、立体構造を基に34、134、219残基の3か所を選定した。34、134、219残基の直後にcpGFPを導入し、タンパク質の発現をウェスタンブロッティングにより確認したところ、すべての候補においてその分子の発現を確認することができた。次にラベル化FliM導入によるべん毛モータの機能回復を位相差顕微鏡による遊泳の確認によって評価したところ、34残基の直後にcpGFPを導入したラベル化FliMでのみ遊泳が観察され、ラベル化FliMはべん毛モータの機能を保持していることが確認できた。遊泳とべん毛形成が確認できた候補からラベル化FliMを精製し、電子顕微鏡で観察したところラベル化FliMがべん毛基部体から解離し、構造解析を行うことができなかった。cpGFPの導入によって、細胞中での機能及び構造は保持されたが、複合体の安定性が低下していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
GFPは256残基から構成されるタンパク質でラベルとして決して小さくなく、この実験開始までcpGFP導入によって構造及び機能が阻害されることが予想された。しかし、今回FliMの3か所にcpGFPを導入したところ、1つはべん毛モータの運動性を回復し、他の2つの候補はラベル化FliMの局在が確認され、いずれの候補もFliMがラベル化したとしてもべん毛基部体を構成している可能性が示唆され、cpGFPをラベルとして用いることの可能性を示すことができた。後は、cpGFP導入部位の最適化を行うことで安定なラベル化べん毛基部体を精製し、構造解析を行うことでcpGFPのラベルラベルとしての有用性を証明することが可能であると考えられる。
現在3つの候補のうち1つにおいて、ラベルとして用いたcpGFPが、FliMの自己組織化及び機能の妨げにならないことを証明できた。今後FliMの構造を阻害しないと予想される約20か所の候補において順次ラベル化実験を行い、FliMの位置と配向を決定する。次に同じくべん毛の回転子を構成するFliG、FliNについても同様に実験を行い、現在明らかにされているFliG、FliNを中程度の分解能の構造に当てはめ、その機能メカニズムを明らかにする。
今回作成した試料は、ラベルとしてのcpGFPを導入することで構造が不安定となり、構造解析できる試料を作成することができなかったため、低温電子顕微鏡観察で必要となる消耗品が不要になったことが主たる原因である。
次年度はより多くの場所にcpGFPを導入し、低温電子顕微鏡による構造解析を行う予定で、その差額分は消耗品の購入に充てる予定である。
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Mol. Microbiol.
巻: 95 ページ: 31-50
10.1111/mmi.12843
http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/jpn/general/lab/02/result/