研究課題
Pro異性化酵素Pin1を対象として,活性部位にある保存された2つのHis(H59, H157)間の水素結合強度と活性の相関を重水素同位体効果を使って解析した.NMR解析の結果,H59とH157それぞれがepsilon-tautomer,delta-tautomerであることを明らかにし,C113-H59-H157-T152の水素結合ネットワークが溶液中のPin1でも保持されていることを確認した.重水素同位体効果を用いて,H59-H157の側鎖間には安定な水素結合が形成されていることを明らかにした.C113D変異体は,異性化活性が低下していることが示されていたが,本研究ではNMRを用いて直接C113D変異体の異性化速度が野生型の約1/50に低下していることを定量的に観測した.さらに,重水素同位体効果をもちいて,C113D変異体ではH59-H157の側鎖間水素結合が低下し,かわってD113-H59の間での水素結合強度が増加したことを明らかにした.H59に対する水素結合強度バランスの変化がPin1の活性部位の構造安定性を変化させ,異性化活性を低下させる機構を明らかにした.当該研究から,Pin1活性部位に形成される水素結合ネットワークが微妙な水素結合強度のバランスで活性構造を維持していることを明らかにした.重水素同位体効果を使って初めて明らかにすることができた成果である.本研究で開発した手法は,タンパク質構造研究全般に利用可能である.
1: 当初の計画以上に進展している
初年度に計画した研究は順調に終了し,すでに論文発表している.2年目のテーマについては,すでにデータ集積を終わっており現在解析中である.また,研究の過程で,酵素反応速度に対する重水素同位体効果を応用した方法を思い至り.新しい同位体効果応用研究を進めている.
1)ドメイン間コミュニケーションの変化による活性調節機構を同位体効果を使って解析する.具体的にはPin1の2つのドメインをつなぐ10残基のリンカー長を換えることで変化する異性化速度の違いと水素結合ネットワークの関係を上記と同様の方法で解析する.2)基質ペプチドの活性が重水素置換率で変化することを見いだした.重水素置した基質の構造異性化における活性化自由エネルギーを解析し,異性化過程における基質分子内の水素結合の寄与について解析する新たな同位体効果利用法を構築する.
初年計画していた実験が予定よりもスムーズに進行したために,予定していた高価な重水素試薬代が予定よりも少なくすんだため.
初年度予定より少なく少なく抑えることができた消耗品費を使って,合成基質の種類を増やすことができる.異なるアミノ酸配列をもつ合成基質を購入し,研究の幅を広げる計画.
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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