本研究では、研究代表者らが光受容体に対するモノクローナル抗体を多数作成した中に偶然に発見した抗体(C13mAb)を利用するものである。C13mAbは温度依存的に抗原と結合・解離するため、これを利用することにより、タンパク質精製や機能制御を目指した。初年度には、マウス腹水より精製したC13mAbを用いて抗原タンパク質を高度に精製することに成功した。そこで、本年はさらに、ハイブリドーマより単離したcDNAを用い、一本鎖組み替え抗体(scFv)の作成を試みた。 C13mAbより単離した免疫グロブリンのH鎖およびL鎖cDNAを用いてscFvをコードする発現ベクターを作成し、大腸菌内で一過的に発現させた。種々の発現条件を検討し、マルトース結合タンパク質と融合させた融合タンパク質(MBP-scFv)を用いることとし、その発現量が最大となる条件を決定した。しかしながら、この条件で回収した大腸菌から得られる可溶性抽出液には、抗原結合性を有するMBP-scFvが含まれていたものの、その量は少なかった。一方、不溶性画分には、温度依存的抗原結合活性をもたない大量のscFvが含まれていた。そこで次に、高濃度の変性剤を用いてタンパク質を可溶化し、徐々にリフォールディングさせることによって、温度依存的抗原結合活性を有するMBP-scFvを大量に得ることを考えた。 変性条件と変性後の再生条件を詳細に検討した結果、温度依存的抗原結合活性を持つMBP-scFvを得ることに成功した。そこで次に、得られたMBP-scFvをカラムビーズに固定化し、C13エピトープをもつタンパク質の温度変化を利用したアフィニティー精製を試みた。その結果、高純度のタンパク質を単離することができた。本成果は、C13エピトープを付加するだけで、任意のタンパク質の精製に利用することが可能であり、生化学的手法によるタンパク質の分離・分析に広く有用と期待される。
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