研究課題/領域番号 |
26650026
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
千田 美紀 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特任助教 (10707467)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | タンパク質結晶化 / 嫌気チャンバー / 結晶化スクリーニング |
研究実績の概要 |
研究実施計画に記載したように、初年度は、結晶が得られることが明らかとなっているタンパク質を用いて嫌気条件下と好気条件下で既存のスクリーニングキット(Wizard I)による結晶化スクリーニングを行い、結晶化のドロップレットに生じる経時変化を比較した。ピロリ菌由来のCagAタンパク質を用いて実験を行った結果、結晶化試薬としてアルコール類やPEG3000を含む条件で明らかな違いが確認できた。また、4種類のテスト実験用のサンプルを用いて嫌気条件下と好気条件下での結晶化の再現性を比較した結果、その中のいくつかについては明らかな違いが確認できた。 さらに、嫌気条件下での結晶化技術を結晶化条件が未知のサンプルに応用し、結晶を得ることに成功した。具体的には、ピロリ菌のCagAタンパク質由来のペプチドとその標的タンパク質との複合体の結晶化を行い、好気条件下では回折実験に不向きな微細な結晶しか得られなかったのに対して、嫌気条件下での結晶化では再現性良く回折実験可能な結晶を得ることができた。 これらの実験結果から、嫌気条件下での結晶化は、結晶化の初期スクリーニングの成功率や結晶化の再現性を高めるために有効であることを確認することができた。また、嫌気条件下での結晶化技術をより多くのタンパク質に応用するために、タンパク質や結晶化溶液の脱酸素を含む実験手順のマニュアル化を進めた。その結果、何名もの研究者が、マニュアルに従い、嫌気条件下での結晶化を行えるようになった。 酸化には弱いが嫌気条件下での結晶化に有効な試薬としては、アルコール類や低分子量PEGが考えられるため、これらの濃度を高めた嫌気条件用の結晶化スクリーニングキットを作成するための準備を開始したところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
嫌気条件下での結晶化によりタンパク質溶液や結晶化溶液の酸化や不均一化を防ぐことで、確かに生体高分子の結晶化の成功率を上げることができることを既に結晶が得られることが明らかになっているテスト用のタンパク質サンプルを用いて確認することができた。ピロリ菌由来のCagAタンパク質をテストサンプルとして用いて結晶化スクリーニングキットWizard Iによる嫌気条件下・好気条件下での結晶化を行った結果、結晶化試薬としてアルコール類やPEG3000を含む条件のいくつかで、嫌気条件下でのみ結晶が得られることが明らかとなった。他のタンパク質を用いた予備実験でも好気条件下ではアルコールを含む条件でタンパク質の変性による沈殿が生じやすいのに対して嫌気条件下ではタンパク質の変性が生じにくいことが明らかとなっているため、アルコールや低分子量のPEGを酸化には弱いが結晶化には有効な結晶化試薬の候補とすることができた。 また、嫌気条件下での結晶化技術を結晶化条件が未知のサンプルに応用することを開始した。今年度は、ピロリ菌のCagAとその標的タンパク質との複合体の結晶化にその技術を応用し、CagA由来のペプチドを用いた場合に標的タンパク質との複合体結晶を得ることに成功している。標的タンパク質は酸化に弱く、好気条件下では大量の酸化膜が生じてしまい、微小な結晶を低い再現性でしか得ることができなかった。しかし、嫌気条件下での結晶化を行うことにより、回折実験に適した結晶を再現性良く得ることができるようになり、X線結晶構造解析の成功に結びつけることができた。 今年度は、結晶化条件が既知のタンパク質をテストサンプルとして用いた嫌気条件下・好気条件下での比較、結晶化条件が未知のタンパク質の結晶化への応用、嫌気条件用スクリーニングキットに用いる試薬の候補選定、実験手順のマニュアル化までを行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
できるだけ多くのタンパク質サンプルを用いて嫌気条件下・好気条件下で一般的なスクリーニングキットを用いた結晶化を行い、結果を比較することで、酸化には弱いが結晶化に有効な結晶化試薬の候補をさらに選び出す。そして、現在までの結果から有効であると考えられているアルコール類や低分子PEGと併せて嫌気条件下での結晶化に有効な結晶化試薬から構成される嫌気条件用結晶化スクリーニングキットを作成する。まずは、結晶化条件が既知のタンパク質サンプルを用いてその有効性を検証し、有効性が確認できた場合には、結晶化条件が未知のタンパク質サンプルへ適用し、一般的に結晶化が難しいと考えられているタンパク質複合体をはじめとするできるだけ多くの新規タンパク質の結晶化の成功を目指す。 結晶が得られる場合に特徴的に生じる沈殿の判別については、目視での判別以外に画像処理のシステムの開発を研究協力者の平木雅彦准教授と協力して進めていく。既に打ち合わせを行い、いくつかの特徴的なデータも渡し、システムの構築を検討している状況である。 また、現在までに作成した嫌気条件下での結晶化の実験手順の簡単なマニュアルに加え、嫌気条件用スクリーニングキットを用いた効率的な結晶化スクリーニングの実験手順、結晶化の再現性を高めるための結晶化の実験手順についてもマニュアル化を進め、学会をはじめとするコミュニティーへの発信を行っていく予定である。
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