研究実績の概要 |
本研究は、ALSの原因となる変異型SOD1と小胞体膜タンパク質Derlin-1の結合を介した小胞体ストレス誘導メカニズムの新知見に基づき、SOD1-Derlin-1結合を阻害するタンパク質間相互作用(protein-protein interaction, PPI) 阻害低分子化合物の創出によって、ALSの病態発症機構の解明と治療薬の開発に繋げることを目的としている。 昨年度までに、およそ16万化合物の中からスクリーニングにより選出したSOD1-Derlin-1結合阻害低分子化合物を構造展開することで、細胞内で顕著にSOD1-Derlin-1結合を阻害する低分子化合物の獲得に成功している。 今年度は、さらに類似化合物を解析することで、細胞内で強い結合阻害活性を有する化合物に共通の構造を明らかにした。また、本結合阻害剤のALSモデルマウスに対する治療効果を検討すため、オスモティックポンプを利用して、SOD1 G93A Tgマウスの脳室内に化合物を持続投与した。その結果、発症時期の遅延と寿命の延長が確認された。この結果は、ALS病態におけるSOD1-Derlin-1結合の重要性を示すと同時に、本化合物がいまだ存在しない病態発症機構に基づいたALS治療薬に繋がる可能性を示している。 一方で、Derlin-1との結合が確認された122種類のALSの原因となる変異型SOD1とDerlin-1の結合に対して、この結合阻害剤が共通に活性を示すか検討したところ、全ての変異型SOD1とDerlin-1の結合が阻害されることが明らかとなった。これは、本化合物が限定されたSOD1遺伝子変異を持つ患者に対してのみ効果を発揮するのではなく、SOD1が引き起こすすべてのALSに対して治療効果を発揮する可能性を示唆するものである。
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