研究課題
平成26年度は実験系の確立を目指した。赤血球は核をもたないため遺伝子の転写が起こらないことから、時計遺伝子の転写翻訳のフィードバックループに依存しない概日リズムの研究に適している。MEDEP BRC5はマウスES細胞由来の赤血球前駆細胞株であり、Stem cell factor存在下で未分化状態を維持しながら増殖し、Erythropoetin (EPO)存在下で赤血球様の細胞に分化する (Hiroyama et al. 2008, PLoS ONE e1544)。MEDEP BRC5をEPO存在下で培養したところ細胞が赤色を呈したことから、ヘモグロビンを合成できる赤血球様の細胞へ分化を進めることはできたと考えられる。次にライトギムザ染色により細胞の形態を観察したが、すべての細胞が脱核赤血球に分化するには至っていないようであった。また細胞培養の検討と並行して、細胞内の酸化還元状態をモニターする系の確立を試みた。26年度は培養が容易なヒトU2OS細胞を用いて、まず抗酸化蛋白質であるPeroxiredoxinの過酸化型の蓄積をイムノブロッティングにより検出した。細胞を様々な濃度の過酸化水素に短時間暴露した後経時的に細胞抽出液を調製し、抗体を用いて過酸化型ペルオキシレドキシンの検出を行ったところ、過酸化水素濃度に応じて異なる挙動を示したため、現在さらに実験を進めている。また、酸化還元状態感受性蛍光蛋白質Redoxfluor (Yano et al. 2010, MCB 30 3758)を利用して、酸化還元状態を無侵襲で長時間測定できる系の確立を試みた。Redoxfluorは環境の酸化還元状態によりFRET効率が変化する。まずU2OS細胞にRedoxfluor発現プラスミドを導入し、得られた複数の安定発現株に関して、蛍光プレートリーダーを用いて測定条件の検討を行っている。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度は実験系の確立に着手し、基礎的なデータを得ることによって27年度において改善すべき点が明確になった。まずMEDEP BRC5は比較的培養が困難なES細胞由来の細胞株であるが、Stem cell factor存在下での増殖能とEPO存在下での分化能は維持できていることが確認できた。しかしながらEPOの添加のみでは均一な脱核赤血球様細胞集団を得ることはやはり困難であることが判明したため、ギムザライト染色用のサンプル調製法の検討やセルソーターの利用を通じて分化状態を明らかにし、この点を解決していく必要がある。一方、培養が容易なヒト骨肉腫由来の細胞株U2OSを並行して用いることで、抗過酸化型ペルオキシレドキシン抗体を用いる方法、および酸化還元状態感受性蛍光蛋白質Redoxfluorを用いる方法の2種類の酸化還元状態のモニター系の確立に取り組むことができた。この細胞にCRISPR/Cas9法を適用し、時計遺伝子を破壊することでMEDEP BRC5を用いた実験系を補完する系の確立ができると考えられる。
今後は、まずMEDEP BRC5から均一な脱核赤血球様細胞集団を調製し、抗過酸化型ペルオキシレドキシン抗体を用いて、蛋白質の酸化状態がフィードバックループによらず概日リズムを示していることを示す。次にケミカルバイオロジー的なアプローチによるリズム発振機構の解明を目指し、蛍光蛋白質Redoxfluorを用いたハイスループットなスクリーニング系を確立する。MEDEP BRC5細胞にRedoxfluorを導入することに挑戦すると同時に、Redoxfluorを導入したU2OS細胞においてCRISPR/Cas9法により時計遺伝子を破壊することも試みる。いずれかの系が確立すれば、転写翻訳フィードバックループに非依存的な、酸化還元リズムを調節する化合物のスクリーニングに利用できるものと考えられる。また酸化還元状態をモニターする蛍光蛋白質はRedoxfluor以外にもいくつか報告されているため、これらについても検討する。
CO2インキュベータ(パナソニックMCO-18AC)を購入予定であったが、同等品を学外より移管できることになり購入しなかったため。
ケミカルライブラリーのスクリーニングに必要な、蛍光測定用黒色96well plate、細胞培養用試薬類など、比較的高価な消耗品が必要となるためこれらの購入に充てる。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件)
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巻: 未定 ページ: 未定
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