本研究では人工細胞を生細胞に近づけその性質を解析することで、生命を構成するために必要な条件を明らかにするための基盤を構築することを目的としている。この試みを通し、H27年度までにはこれまでに、細胞分裂面を決定するタンパク質の局在波であるMin波の人工細胞内創発条件を見出した。本年度は①生細胞と同様に多種多様の膜タンパク質を保持した人工細胞の構築と、②ゲノムDNAを機能的に内包する人工細胞の構築を行った。 ①に関しては、膜タンパク質に融合させGFP蛍光を指標に、大腸菌から抽出した細胞膜成分が人工細胞に融合したことを確認した。また、細胞膜成分を融合により獲得し、かつ細胞抽出液を含む人工細胞において、DNAにコードされたmCherryタンパク質を発現可能であることを示した。さらに、この研究の最中に、分子の漏出が少なく、非常に簡便である新規なリポソーム融合法を開発した。 ②に関しては、バクテリアサイズのゲノムを内包した人工細胞の創成に挑戦した。これまでに、バクテリアゲノムを試験管内で転写翻訳する系を立ち上げていたため、それを活用し、同様に人工細胞内でも転写翻訳が生じることを解析した。結果、翻訳に関しては検出閾値以下であったが、mRNAは定量でき、内包したゲノムが機能的に転写されていることは確認された。これまでの研究において、100kbpを超えるサイズのDNAは、多価カチオンや脂質膜によってマクロな構造が変化することが報告されていたが、今回4Mbpであるバクテリアにおいても同様の現象を観察することができた。
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