転写後遺伝子発現制御機構の1つ,RNAサイレンシングは,真核生物において広く保存されており,発生,ウイルス防御,ゲノム安定性など,さまざまな生命現象を司っている.さらに,遺伝子を抑制し,機能を調べるための簡便な方法として,その有用性が注目されている.その一方で,RNAサイレンシング機構の作用複合体であるRNA-induced silencing complex(RISC)については,細胞内においてどのように機能的な複合体が形成されるのか,そしてどのように標的mRNAに作用するのか,といったことが未解明である.本研究では,Argonauteタンパク質(Ago)へのRNA2本鎖積み込み過程だけでなく,RISC成熟化過程,さらに標的mRNAの認識と切断過程まで含めた,RISCの作用機序全体のダイナミクスを明らかにすることを目的としている. 平成27年度は,形成したショウジョウバエAgo2 RISCを用いて,Ago2-RISCによる標的認識および切断過程の1分子イメージング系を確立した.まず,内在性のAgo2タンパク質を含むショウジョウバエS2細胞から,細胞破砕液を抽出した.次にこの破砕液に蛍光標識RNA2本鎖を加えてRISC形成を行わせることで,ガイド鎖が蛍光標識されたAgo2-RISCを調製した.そして,蛍光標識した標的RNAをガラス基板上に固定し,形成したAgo2-RISCを加えることで,標的認識および切断反応を1分子観察した.その結果,これまで未知であった標的切断時の中間体を同定し,標的切断後の複合体解離過程を明らかにした.
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