研究課題
本研究はヒトゲノム由来の天然変性タンパク質(IDP)から医薬品ないし医療用細胞の添加剤・保護安定剤を開発することを目的とした研究である。特にES細胞・iPS細胞などの多能性幹細胞の凍結保護液を開発することを目的としている。本研究の着想は、ヒト由来の5種類のIDPが、乳酸脱水素酵素LDHの酵素活性に対して、高い凍結保護活性を示したという申請者独自の研究結果に基づいている。本申請を行ってから採択されるまでの期間に、LDHに対する凍結保護活性・凍結乾燥保護活性を確認できたため、国内特許出願を行った。更に、この5種類のIDPの凍結保護活性が、より一般性を持つ活性であることを示すために、別の酵素であるグルタチオンS転移酵素、酵素ではないタンパク質のモデルである緑色蛍光タンパク質の、それぞれに対して、標品であるウシ血清アルブミンと同等ないしそれを上回る凍結保護活性を見出した。更に、医療用(タンパク質製剤・細胞製剤)への添加物としての使用を容易にするために、将来のGMP準拠の生産を念頭において、既に得られている5種類のIDPの部分ペプチドを計9種用意し、それらすべてのLDHに対する凍結保護活性を測定した。その結果20アミノ酸のペプチドで、同党の凍結保護活性を示すものを同定した。これらの結果を実施例として追加し、2015年1月に、国内優先権に基づく新たな特許を出願すると同時にPCTによる国際出願を完了した。一方、細胞の凍結保存液への応用のための予備実験も開始した。COS7、HeLa、NIH3T3などの確立された培養細胞株では、申請者の予測とは異なり、DMSOが2.5%以上あれば、培地中の血清は0%にでき、対照品であるセリシン添加の効果は見られなかった。そこで、評価系を、より保存条件の設定が難しいとされている、正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)の条件検討を開始した。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、当初の計画に比して、特に凍結保護活性を有する実用的なペプチドの取得と、その知財化の観点においては、当初の計画以上に順調に進展している(例えば、当初計画では、知財化は平成27年後半に予定していた)。これは、予備データの段階から、申請者が所属する名古屋大学の学術研究・産学官連携推進本部(知財グループ)担当者ならびに弁理士、更には本学と共同研究関係にある幹細胞を取り扱うベンチャー企業である株式会社Clioの吉田社長に相談し、的確な助言に従い、研究を展開してきたことによる。特に、まず基本特許を国内で出願し、より実用的なデータを短期間で追加し、優先権出願制度を利用して、追加出願をするという、従来のアカデミアにおける研究スタイルよりも踏み込んだ展開を行うことが出来た。PCT/JP2015/050131 「タンパク質凍結保存用保護剤」ただし一方で、特に医療応用時の実用性を重視し、部分ペプチドの評価を優先したため、当初の計画書にある「更に新規のIDP約15種をヒトゲノムから探索する」件については、予定よりも遅延が生じている。両者を総合して自己評価し、「概ね順調に進行している」と評価した。なお学術論文の発表については、IDPの大腸菌を用いた生産法について、既に一報出版しており、更に凍結保護活性について現在投稿中であることから、順調に推移している。
前述のように、平成26年度中に、現有の5種類のヒトゲノム由来IDPに加えて、新規のIDPを15種類準備して、それを評価することを、平成27年度の研究目標の中核とする。また、その部分ペプチドなども含めて計50種類程度のIDPの凍結保護活性と、アミノ酸配位列の相関に関する研究を行う。特に、活性の定量的評価が容易なLDHの凍結保護活性について注力し、アミノ酸配列の特徴や規則性について解析し、IDPによる凍結保護のメカニズムを詳細に解明する。併せて、細胞保存液の開発に着手する。具体的には(1)既取得済みのIDPならびにその部分ペプチド、新規に得たペプチド、および既取得済みのIDPの部分ペプチドの配列改変体について、多変量解析などの統計解析を行い、凍結保護活性とアミノ酸組成など活性の相関を見る。(2)NHDF(ヒト皮膚線維芽細胞)などの分化能をもった細胞を用いて、IDP添加細胞保護溶液・無添加保護溶液・DMSO・アセトアミド等(対照実験)を用意し、凍結処理時間(15秒、60秒)を変えて凍結し、二週間保存したのちの細胞生存率をMTT細胞アッセイ等により評価する。更にマウスES細胞、間葉系幹細胞(MSC)、造血幹細胞、神経幹細胞などについても性能評価を行う。(3)論文発表を行う。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
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