研究課題/領域番号 |
26650050
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
岩楯 好昭 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40298170)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 細胞遊走 / ケラトサイト / アクチン / ストレスファイバ |
研究実績の概要 |
アメーバ運動(遊走)の原動力は細胞前端の伸長と後端の収縮だとみなされてきた。ところが,魚類表皮細胞ケラトサイト(keratocytes)や細胞性粘菌は繊維芽細胞よりも10倍速く運動するにも関わらず,前端の伸長に伴い基質へ発揮する牽引力は繊維芽細胞の1/10に過ぎない。この事実は前後端の伸長収縮が運動の原動力であるという説と矛盾する。 ケラトサイトの細胞質はラグビーボール様の形態で,ボール表面の長軸方向にストレスファイバというアクチンフィラメント(以下Fアクチン)が束化した太い繊維構造が並ぶ。遊走中このファイバで囲まれたボールが回転するという説がかつて主張されたことがある。本研究では,ストレスファイバの回転こそがアメーバ運動の真の原動力であることを実証することを目標としている。 細胞は一般に励起光に弱く,さらにケラトサイトは毎分10マイクロメートルと高速で運動するため,通常の共焦点顕微鏡では3次元動画計測は難しい。焦点面にのみ励起光を当て,スポット照明のスキャンの必要が無く高速稼働な光シート顕微鏡は,ケラトサイトの3次元動画計測に威力を発揮する。今年度、基礎生物学研究所 野中茂紀博士との共同研究のもと、野中博士開発の光シート顕微鏡をもちいて、ケラトサイトのストレスファイバが回転する様子を動画として記録することに、まだ例数は少ないものの成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ケラトサイトの細胞質中でストレスファイバが回転している様子を記録することができたことは、期待以上の伸展である。しかし、例数が少なく、回転速度の詳細な解析には至っていない。また、回転を人為的に促進させたり、抑制させたりすることには成功していないことは期待以上の伸展であるとはいえない。しかしながら、ストレスファイバの回転速度と細胞重心の運動速度とを精密に測定し、それらの大小関係を比較すれば、ストレスファイバの回転が細胞の運動の原動力になっているか、あるいは、細胞の運動の結果ファイバが回転しているのかを判断できるという着想を得た。すなわち、ファイバの回転速度が細胞重心の運動速度よりも速ければ、ファイバの回転が細胞運動の原動力であると言えるだろう。 以上、期待以上の伸展と必ずしもそうとはいえない事象とがあるが、ファイバの回転を記録できたことはたいへん大きな期待以上の伸展であるため、概ね順調に進展していると言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ケラトサイトのストレスファイバが回転する動画の撮影例数が現在まで少ないので、次年度は10例の撮影を目指す。 (2)1の動画から、ストレスファイバの回転速度を精密に解析し、同時に細胞重心の運動速度との詳細な比較を行い、ファイバの回転が細胞運動の原因なのか結果なのかを明らかにする。 (3)細胞膜を染色し、その一部をフォトブリーチ等により退色させ、膜の運動速度を記録し、ストレスファイバの回転との相関関係を検討する。 (4)磁性ビーズを細胞内に導入し、ストレスファイバと接着さえ、磁石でビーズを捉えることで、ファイバの回転を人為的に制御させる実験系の構築を目指す。 (5)4の実験系を用いて、ファイバの回転を人為的に制御した時に細胞運動がどのように影響をうけるか検討する。これにより、ファイバの回転が細胞運動をどのように実現しているのかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度設備備品費として光ピンセット Mini(シグマ光機・LMS-M1064)を購入する計画であった。光ピンセット Mini を新学術領域研究との共用備品として購入することができたため、支出を抑えることができた。 一方、次年度、研究計画の期待通りの進展により、更なる研究の進展のための人件費、旅費、消耗品費の増加が予想される。
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次年度使用額の使用計画 |
実験遂行のための技術補佐員雇用費、研究成果発表のための旅費、また、共同研究先の基礎生物学研究所へ赴く回数が増えるたの旅費、光ピンセットの他、磁気ピンセットを作成するための消耗品費の増加が見込まれる。
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