アメーバ運動は神経組織の形成から好中球の免疫応答にまで見られる普遍的な細胞機能である。運動中,細胞は前端の伸長と後端の収縮を繰り返す。この細胞前後端の伸長収縮がアメーバ運動の原動力だというのは現在,細胞生物学の定説である。ところが,アメーバ運動速度と前端伸長に伴う細胞の牽引力を同時に計測すると,魚類表皮細胞ケラトサイトや細胞性粘菌のアメーバ運動速度は繊維芽細胞より10倍速いにも関わらず,繊維芽細胞の1/10の牽引力しか出さない。この事実は前後端の伸長収縮がアメーバ運動の原動力であるという説と明らかに矛盾する。ケラトサイトの細胞質はラグビーボール様の形態で,ボール表面の長軸方向にストレスファイバというアクチンフィラメントが束化した太い繊維構造が並ぶ。本研究は,このストレスファイバが回転し,アメーバ運動の原動力であることを証明するものであった。 当初の目標は光シート顕微鏡でストレスファイバの回転を3次元撮影することであった。この目標は平成26,27年に達成した。もし、共焦点顕微鏡で精密な3次元撮影ができれば、回転角速度の定量や車輪としてのストレスファイバの破壊など、精密な実験が可能となる。27,28年に高速にZ軸をスキャンできる共焦点顕微鏡を用いて、3次元撮影に成功した。29年度、さらに精密な実験を行い、回転速度等定量的な測定に成功した。以上により、回転が遊走の原動力になっていることを示すことができた。
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