光第二高調波(SHG)イメージングは生物学で一般に用いられている2光子蛍光とは全く異なる情報を観測者に与える非常に強力な観測技術であるが、これまで専用の色素が存在せず、その長所が活かされないまま発展が滞ってきた。本研究では次世代SHG専用色素、「無蛍光性SHG色素」の開発と生物学への初めての応用を試みた。 まず、これまで一般に用いられてきたFM4-64色素を比較対照として新規SHG専用色素Ap3の解析を進めた。溶液での解析からAp3はFM4-64とは対照的に蛍光を全く発さず、褪色へと繋がる光化学反応も非常に少ないことが明らかになった。次に培養細胞を用いた評価から新規SHG専用色素が実際に蛍光を全く発さずにSHG性を持つものであることが示された。更にAp3とFM4-64を大脳皮質の神経細胞に導入して比較したところ、Ap3のSHGシグナルの方が光照射による褪色が少なく、光毒性も軽減されていることが明らかとなった。また、Ap3は細胞膜電位の変化に線形に応答したSHGシグナルを出すことが分かり、膜電位の計測に応用可能であることが分かった。 次に、他の蛍光色素との同時染色によるSHGと蛍光シグナルの同時観測を試みたところ、FM4-64が既に導入されている蛍光色素のシグナルを大きくゆがめてしまうのに対し、Ap3は蛍光像を変えること無く、他の蛍光色素とSHGシグナルの同時取得を可能にすることが明らかとなった。更に、神経細胞の活動に応じた膜電位の変化と細胞内カルシウム濃度の変化を同時に捉えることに成功した。 これらの結果から、今回開発に成功したAp3色素は細胞毒性や光安定性に優れたものであり、その無蛍光SHG性を利用することにより完全に独立したマルチモダル2光子顕微鏡観測が初めて可能となることが明らかとなった。これによりSHG専用色素という新たな色素開発の領域が拓け、SHG顕微鏡の細胞生物学への応用が飛躍的に展開されるものと期待される。
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