研究課題/領域番号 |
26650057
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研究機関 | 浜松ホトニクス株式会社 |
研究代表者 |
木村 祐史 浜松ホトニクス株式会社, 中央研究所, 部員 (90713371)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生体膜 / 呼吸鎖複合体I / イオン駆動型モーター |
研究実績の概要 |
本年度は、以下の4つの項目について取り組んだ。 1.前年度までに開発したMEMS流路デバイスを用いた計測システムでは、流路内微細小孔にリポソーム状の巨大化生体膜を捕捉する。しかしながら、巨大化生体膜を含む懸濁液は、細かな細胞破砕物を多く含み、微細小孔部を詰まらせるため、捕捉成功率に大きな問題があった。研究実施計画にあるFoF1回転運動は、経験的に発見確率が非常に低いことが予想されるため、回転運動の観察には捕捉成功率の向上が必須である。そこで、回転計測に先立ち、捕捉成功率を大きく改善する目的で、MEMS流路デバイス内に1対の平行電極を用意し、誘電泳動により懸濁液から目的の巨大化生体膜のみを分離する機構を開発した。この仕組みにより、懸濁液から巨大化大腸菌が高い割合で分離取得されることが確認され、ほぼ巨大化大腸菌だけが微細小孔部に到達するため、実験効率の大幅な改善を実現した。 2. 前年度は、計測システムの有効性を実証するために、NADH駆動による呼吸鎖複合体Iの活性の確認を行った。本年度は、本研究課題の対象であるFoF1-ATP合成酵素の機能イメージングを行い、ATP駆動によるFoF1-ATP合成酵素のプロトン輸送活性の保持を確認した。今後、プローブを導入し、回転運動の計測を行う。 3.前年度に引き続き、光駆動に必要な光学系として、1064 nmレーザーを用いたエバネッセント照明光学系の構築を行った。IR励起蛍光粒子を励起すると、ガラス表面近傍の粒子のみが蛍光を呈することから、エバネッセント光の成立を確認した。 4.基板への固定やプローブの結合を行うために、遺伝子工学的にFoF1へビオチンやHis-tagを導入した。この、大腸菌細胞膜に発現しているビオチン・His-tag変異体が、生化学的にATP駆動によるプロトン輸送活性を有していることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1分子のFoF1回転運動の検出率は非常に低いことが予想されるため、本年度は捕捉成功率の向上を優先させた。結果として、目的の巨大化生体膜を分離取得する機構の開発に成功し、実験効率は大きく改善した。しかしながら、当初本年度に予定していたFoF1-ATP合成酵素の回転運動の計測は次年度に持ち越しとなるため、成果の発表には至っていない。ただし、上記した捕捉効率の向上の達成とともに、光駆動用のエバネッセント照明光学系の構築、FoF1変異体の構築を終えており、次年度には回転計測を行い、また、当初の予定通り光駆動に挑戦することは十分に可能である。
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今後の研究の推進方策 |
計測システム、測定試料、光駆動用照明などの準備は整ってきている。したがって、回転計測を遂行し、研究計画通りに最終年度の実施項目である光駆動に挑戦する。具体的には以下の通りとなる。 1.これまでに構築してきた測定システムを用いて、FoF1の回転運動を計測する。回転運動は、ATPやプロトン濃度勾配(pH差)、電極を介した電圧印加等により引き起こされる。各条件におけるビーズの運動を解析することにより、FoF1の回転速度、回転方向、トルクなどのモーターとしての特性を詳細に調べる。 2.エバネッセント照明により、FoF1の光駆動に挑戦する。回転計測で得られた基礎データを参考にするとともに、励起光のエネルギー密度の上昇による電場強度の調整や、ATP,ADP,Pi濃度による自由エネルギーの調整等を行うことで、光により駆動される条件を実験的に検討する。
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