ミトコンドリアの共生進化には2つの未解明な問題がある。一つは共生体ゲノムのほとんどが宿主の染色体遺伝子に転移したこと。二つ目は転移した遺伝子のタンパク質が、初期のミトコンドリア内に輸送されるシステムが構築されたこと。本研究では後者に注目する。真核生物と細胞内共生細菌ウォルバキア(あるいはボルバキアとも呼ぶ)のタンパク質をモデルとし、生物情報学と実験的解析からミトコンドリアの新しい進化的概念の提唱や実証を行った。 生物情報学的解析から、まず、酵母ミトコンドリアプロセシングぺプチダーゼ(MPP)α、βサブユニット(αMPP、βMPP)のウォルバキアにおける類似分子を検索した。αMPPと比較的優位な相同性を示す遺伝子は発見できなかったが、βMPPでは2種類の相同性を示す分子が存在した。いずれもβMPPに特有の活性部位モチーフを保持しており、同一の祖先分子に由来する可能性が示唆された。次に、ミトコンドリアタンパク質を外膜から膜間空間に透過させるチャネルタンパク質Tom40、内膜のチャネルタンパク質Tim23の類似遺伝子をウォルバキアゲノムから検索した。いずれもアミノ酸配列で低い相同性分子が得られた。興味深いのは、膜タンパク質であるトランスポーターや電子伝達系のチトクロム酸化酵素サブユニットとの類似性が認められた。このことは、ミトコンドリアの共生進化の段階で、内在性の膜タンパク質が機能進化し、TomやTim複合体を形成した可能性が考えられる。 実験的解析では、まず、細胞内ウォルバキアを高感度で検出するための抗体の作成を行った。結果、ウォルバキア表面タンパク質(WSP)に対する特異的な抗体をマウスから作成する事ができた。また、マウス繊維芽細胞に対してウォルバキアを作用させ、宿主が哺乳動物細胞であるウォルバキアの感染モデル培養細胞系を構築することに成功した。
|