我々は、放線菌培養上清サンプルから、ヒト子宮頚部癌由来の上皮様癌細胞(HeLa細胞)の核形態を、白血球の一種である好中球細胞に見られる「分葉核」に変化させる化合物2057を同定した。本研究では、2057処理による核分葉化機構について解析するとともに、HeLa細胞から好中球細胞への化合物によるダイレクトリプログラミングの可能性について検証した。まず、化合物2057がProtein Kinase C (PKC) の活性促進活性を持つことを、スタウロスポリンによる阻害実験により証明した。次に、化合物2057処理による核分葉化が、新規な転写やタンパク質への翻訳を必要としないことを示した。また、チューブリンの重合阻害によって2057処理細胞の核分葉化が抑制されたことから、チューブリンのダイナミックな局在変化が核を分葉化する力を生み出していることを明かにした。PKCによってαチューブリンがリン酸化されることが核の分葉化を誘導していると推測された。また、核の分葉化によって、ヒストンのメチル化など、顕著なクロマチン修飾変化は観察されなかった。2057処理後、9~10時間経過すると、浸潤突起の形成などHeLa細胞の細胞形態が大きく変化し、遊走性が顕著に上昇することが示された。マーカー蛋白質の発現解析から、2057長時間処理によりHeLa細胞に上皮間葉分化転換(EMT)が生じている可能性が示唆された。一方、HeLa細胞から好中球様細胞へ直接変換したかどうかを検証するため、化合物2057で処理後、好中球細胞特異的表面抗原CD32、CD43、CD16bなどが発現しているか、それら因子に対する抗体を用いた解析を行ったが、長時間処理細胞においても、好中球細胞特異的表面抗原の有意な発現は検出されず、HeLa細胞から好中球様細胞へ変換した可能性を支持する結果は今回得られなかった。
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