研究課題/領域番号 |
26650068
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
和田 健一 独立行政法人理化学研究所, 前田バイオ工学研究室, 協力研究員 (20525919)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | マイクロデバイス / ミトコンドリアゲノム / 細胞融合 / 細胞質移植 / ゲノム改変 |
研究実績の概要 |
mtゲノムは多岐にわたる生命現象に関与するためその機能解析には大きな関心が寄せられている。しかしそのコピー数は一細胞あたり数千にもおよび、いくつかの変異タイプが混合した(すなわちヘテロプラズミックな)状態で存在するため、変異導入に基づいた機能解析を行うためにはホモプラズミックなmtゲノム変異の導入という困難な課題を克服しなくてはならない。本研究では、マイクロデバイスを用いた独自の細胞質移植技術を用いたホモプラズミックなmtゲノムの改変技術を創出することを目的とした。 本研究において提案するホモプラズミックなmtゲノム改変技術の概略は以下の通りでる。まず、mtゲノム全領域を対象にランダムに変異を蓄積させた細胞をドナー細胞とし、mtゲノムを欠失させた細胞(ρ0細胞)をレシピエント細胞として準備する。このような細胞材料を用いて極めて微量の(理想的には一つの)ミトコンドリアをドナーからレシピエントに移植することで変異mtゲノムを純化して、ホモプラズミックなmtゲノム変異を有する細胞を樹立する。 H26年度は、上記のmtゲノム改変技術の実現に向けて、独自技術であるマイクロデバイスを用いた細胞質移植技術による量的制御を伴ったミトコンドリア移植の実現に取り組んだ。これまで用いてきたマイクロデバイスは微細なスリット構造(マイクロスリット)を介して細胞を融合させることで細胞質の移植を実現していたが、ミトコンドリア移植量の制御は行えなかった。そこでマイクロスリットをトンネル構造に置換することを試みた。その結果、トンネル長を変えることでミトコンドリアの移植量の制御に成功した。特に、トンネル長を約10 μmに延長することでミトコンドリアの移植量が著しく減ずること示され、この条件下において目標としていた単一ミトコンドリアの移植に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画において提案したホモプラズミックなmtゲノム改変技術を実現するためには、少なくとも以下の4項目の課題を克服しなくてならない。1)ドナー細胞(mtゲノム変異蓄積細胞)とレシピエント細胞(ρ0細胞)を樹立する。2)単一ミトコンドリアの移植を実現する。3)ミトコンドリア移植後に融合した細胞対を解離させる。4)ミトコンドリアが移植された細胞をマイクロデバイス内から選別、回収する。 これらの課題の中で最も技術的な困難を伴うと予想されるものは「単一ミトコンドリアの移植の実現」であった。本年度の研究実施において、ミトコンドリア可視化細胞を用いた模擬的試行であったが、マイクロデバイスの改良を通じてこれを実現することに成功した。また、レシピエント細胞として不可欠であるρ0細胞も143B細胞から樹立が終了した。これらの研究成果より、本研究課題はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では、ミトコンドリア量の制御を細胞の解離時間を任意に制御することで実現することを想定していたが、この試みは成功に至っていない。これにかわり、マイクロデバイス形状を改良することでミトコンドリアの移植量を制御し、目標だった単一ミトコンドリアの移植を実現した。次に必要なことは、ミトコンドリアが移植された細胞を融合パートナーから解離させた後に、選別、回収する手段を開発することである。したがって、H26年度に成功に至らなかった細胞解離の制御は、今後実現しなければいけない項目においても重要な検討課題である。これを踏まえて、H27年度は特に細胞解離の制御を実現する方法の開発に重点を置いて研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度末に研究に大きな進展があったため、実験を一時中断し論文作成に取り組んだ。この期間に使用を予定していたものを次年度への使用額とした。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度に研究に伸展に伴い新しい研究課題が萌芽した。当初の研究計画に加えてこの研究課題の実施のために次年度使用額を使用する計画である。
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