本研究では、マイクロデバイスを用いた細胞融合による独自の細胞質移植技術を利用したホモプラズミックなmtゲノム改変技術の開発を目的とした。その概略は以下の通りである。mtゲノムに変異を蓄積させた細胞をドナー細胞とし、ρ0細胞(mtゲノムを欠失させた細胞)をレシピエント細胞として、微量のミトコンドリア(理想的には一つ)を移植することでmtゲノムのクローニングを実現し、ホモプラズミックなmtゲノム変異を有した細胞を樹立する。このmtゲノム改変技術を実現するためには、1)単一ミトコンドリアの移植、2)ドナー細胞の樹立、3)レシピエント細胞の樹立、4)ミトコンドリアが移植されたレシピエント細胞の選別、を実現しなければならないが、平成26-27年度における研究期間において、これらの課題1、3、4を実現した。具体的には、マイクロデバイス形状の改良と細胞骨格阻害剤を併用した細胞融合法の開発によって直接的な単一ミトコンドリア移植が実現した(課題1)。また、長期間の臭化エチジウム処理によってρ0細胞を樹立した(課題2)。さらに、virus thymidine kinase発現とGCV暴露によってドナー細胞由来の核を含む細胞を除去できる細胞選別システムを構築した(課題4)。 本研究では、残念ながら最終的な目標であったホモプラズミックなmtゲノム改変には至らなかったが、ホモプラズミックなmtゲノム改変技術の開発において最も重要かつ困難な課題であった“直接的な単一ミトコンドリア移植”に成功したことは特筆すべきことである。残された課題、すなわちドナー細胞(mtゲノム変異の蓄積した細胞)の作製そのものは既存の技術で十分に実現が想定できるものであり、したがって、本研究による成果は、ホモプラズミックなmtゲノム改変の実現に向けて大きな進展があったと評価できる。
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