研究課題
ヒト培養細胞などで分裂期初期における染色体動態を観察すると、個々の染色体が独立に挙動するのではなく、全ての染色体が緩やかにまとまった一群として挙動しているように見える。また分裂期同調した培養細胞から染色体を生化学的に調製すると、一つの細胞に由来する染色体は緩やかにまとまり、ボール状の構造を成す。分裂期染色体が一群として挙動することを促すような「染色体間グルー(糊)」の存在が予想される。そこで本研究では、これまでに具体的な検討が一切されてこなかった染色体間グルーについて、その成分の同定に挑み、かつ性状解析を行う。また染色体間グルーの果たす生理的意義について、全ての染色体が一つの核に収納される確立を高めることで、染色体安定性維持に貢献する可能性を特に検討する。初年度である2014年度においてはまず、生きた細胞において分裂期染色体の挙動を観察、測定し、染色体のまとまりを定量的に評価する手法の確立を目指した。具体的には、CENP-A(セントロメアタンパク質)とGFPとの融合タンパク質を安定発現する細胞を樹立し、染色体の一部のみ(セントロメア領域のみ)を可視化することで測定精度をあげた。次に染色体間グルーとして機能する可能性を独自に示唆していたKi67抗原について、種々の方法で細胞から除去し、染色体のまとまりがどのように乱されるのかを観察、測定した。観察の再現性や測定の信頼性を高めるために、実験系を更に洗練する必要があると思われた。具体的には細胞株の検討(染色体倍数性が著しく乱れた癌細胞ではなく、より正常細胞に近い細胞株を使用すること)や、Ki67抗原を除去する方法の再検討(分裂期における機能のみを阻害する方法の検討)が必要であると思われた。2014年度においては、(Ki67抗原以外の)染色体間グルー活性を持つ因子を探索することも計画していたが、十分な取り組みができなかった。
3: やや遅れている
研究遂行の基本となる実験系について、改良する余地が新たに認められた。これに取り組んだために、当初の計画よりはやや遅れている。
初年度の達成度は十分ではなかったが、今後の研究で初年度の遅れを取り戻す。
ほぼ計画通りに使用したが、予め厳密には算出できない支出(研究の進行状況に応じて変わるDNA配列解析依頼費などの支出)があるため。
次年度の物品費などに繰り越して使用する。繰り越し額は(受領予定額と較べ)相対的に少額であるため、使用計画の全体像に変更はない。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (1件)
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