研究課題
本研究は鳥類の中でとくに形態が特殊化したペンギンにおいて、鳥類で極めて保存性が高い共通派生形質である前肢の形態の変形を引き起こした発生メカニズムを明らかにすることを目的とする。1.ペンギン胚の発生段階表の作成本研究を行う上で前提となるペンギン受精卵の手配について、平成26年度においても引き続き平成東京動物園協会・葛西臨海水族園から継続して提供を受ける体制を整え、十分な受精卵を得ることができた。その結果、発生段階表を作成するための胚の固定標本の採集はほぼ終了し、現在発生段階表の作成と論文発表の準備を進めている。2.ペンギン胚肢芽の形態変化および骨組織の形態学的・組織学的データ分析平成26年度はペンギンの前肢の扁平な形状について特殊化の過程を調べるため、上記の発生段階表において形態の観察を行うとともに、Aggrecanのin situハイブリダイゼーションにより骨形成過程をニワトリ胚と比較した。また、前肢の第1指の形成不全の原因となる発生プログラムの解析のため、ペンギン胚前肢における細胞増殖(PHH3抗体)や細胞死(TUNEL法、ナイルブルー染色)の検出、また肢芽の前側の形態形成に関わると考えられるいくつかの遺伝子(HoxA11-13、Mkp3、sef、tskなど)の発現解析を行い、ニワトリ胚との比較を行った。さらに、これらの固定胚を用いた実験で得られた結果をさらに解析するため、生きた状態の胚を取り扱うことができるように関係する手続きを行い、平成27年度からは生きている胚に対する実験発生学的な手法による解析を行うことが可能となった。
1: 当初の計画以上に進展している
平成26年度の研究実施計画は3次元形態解析を除きほぼ順調に遂行し成果を得ており、発生段階表については論文の作成に着手している。また、当初計画では困難と思われた生きた胚を用いた解析を行うため、ペンギン胚の運搬や動物実験計画について、綿密な計画のもとに手続きを行い、関係機関からの了承を得て、平成27年度から自らの研究室内においてペンギン胚を用いた実験を行う準備が整った。
本研究課題において、当初計画では予定していなかった生きた胚を実験操作できるようになったことから、今後は、実験発生学的な手法による解析に適した実験計画である、3.ペンギンの特徴を生み出す発生メカニズムの解析、に重点をおいて解析を進める。当初の計画どおり固定正常胚における細胞分裂、細胞増殖、細胞死、細胞形態などの細胞レベルの解析を進めるほか、FGF阻害剤などの薬剤添加やAER切除を行った実験胚における解析も行う。また、細胞標識により肢芽の間充織や上皮の発生系譜を解析し、ペンギン胚の扁平な形態や第1指の形成不全の原因となるメカニズムを解析する。また、これらの実験が順調に進捗した場合には、得られた成果から予想される原因遺伝子の機能解析(エレクトロポレーション法を用いた過剰発現、siRNAによる機能阻害など)を行う予定である。また、風切り羽の消失については、研究代表者らが発見した新規風切り羽マーカー遺伝子とそのエンハンサー解析がニワトリを用いて順調に進んでおり、それらの成果をペンギン胚へと適用、比較する。
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Development Growth and Differentiation
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