研究課題/領域番号 |
26650076
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中野 幹治 名古屋大学, 生命農学研究科, 研究員 (30636006)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ウズラ / 多能性幹細胞 / 遺伝子組換え |
研究実績の概要 |
鳥類多能性幹細胞を利用した遺伝子組換え体の作出に向けて,ウズラの胚盤葉細胞を用いた細胞株の樹立を試みた.研究開始前に想定していたニワトリ由来LIFの使用に加え,特定の低分子阻害剤を培養培地に添加することによって,安定的なウズラ胚盤葉細胞の長期継代培養が可能となった.また,胚盤葉細胞は,使用するウズラの系統によって培養効率に明確な差が現れることが明らかとなったことから,細胞の特徴解析を行っていく際,特に生殖系列伝播の可否を検証する場合にも系統間差が大きな影響を与えることが考えられた. 継代培養を行った細胞は,未分化および多能性マーカーに陽性を示し,初期胚に移植することでキメラ体を作出可能であった.そのため,長期間継代培養を行った細胞が,多能性幹細胞としての特徴を維持していることが示された.作出したキメラウズラは,生殖系列伝播を確認するため,現在後代検定を実施中である. 長期の継代培養が可能となった多能性幹細胞は,緑色蛍光タンパク質遺伝子と薬剤耐性遺伝子を共発現するプラスミドの導入を試み,安定細胞株の取得に成功した.遺伝子導入細胞は,初期胚に移植することでキメラ体を作出可能であり,胚体内の様々な部位で緑色蛍光が観察可能であった.現在,移植した細胞が生殖細胞系列を含め胚体内のどのような組織・細胞に分化しているか検証を行っている.また,ニワトリ細胞を使用した際に問題となった,遺伝子導入に伴う染色体異常の発生についても現在検証中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画に記載した初年度の計画通り,ウズラの胚盤葉細胞を利用した培養系の構築と,樹立した細胞の特徴解析は概ね順調に成果を得ることが出来た.しかし,使用するウズラの系統によっては,細胞培養の効率が大きく異なったため,細胞株が樹立できた系統は予定していた系統数(7系統)よりも少なく樹立に成功していない系統も存在する.また,遺伝子導入については,ニワトリ細胞を使用した際と比べて安定細胞株を取得できる効率が低く,取得が遅れたため簡易核型解析による異常染色体の検出は現在解析を進めている.一方,キメラ体の作出については順調に進んでおり,2年目に計画していた後代検定を既に一部のキメラ体で進めている段階にある.生殖系列キメラの作出効率を向上させる培養PGCの取得については現在検証を計画中である.
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今後の研究の推進方策 |
ウズラにおいて樹立に成功し,遺伝子導入後に安定株を取得した細胞を用いて,生殖系列伝播の可否についてキメラ体を使用した解析を行う.また,培養に使用する系統によって樹立の効率が大きく異なったことから,生殖系列伝播についても系統間による影響が大きくなることが予想されるため,細胞株の樹立に成功していない系統についても昨年度に引き続き培養を試み,その特徴解析を進める.遺伝子導入については,現状の非相同末端結合(NHEJ)を利用した導入だけでなく,相同組換え(HR)を利用した場合に異常核型の発生に影響を与えるかどうかを検証し,キメラ体の作出においてより適した細胞株を選出する. また,今年度は幹細胞株を用いた生殖系列キメラ作出の効率向上を目指して,多能性幹細胞から分化した始原生殖細胞(PGC)の取得と培養を試みる. ウズラ細胞を用いた上述の実験によって得られた最適条件をニワトリに適応することで,今年度の後半にはニワトリの多能性幹細胞株の取得を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時には,初年度に細胞培養の条件検証に数多く利用可能なCO2インキュベーターの購入を予定し,次年度にキメラ実験用孵卵器の購入を予定していた.しかしながら,一部の細胞株の樹立は早期に成功しキメラ実験が予定より早期に開始できることとなったため,使用する孵卵器の購入を初年度に前倒しにした.一方で購入予定であったCO2インキュベーターの購入は先送りにすることになったため,購入機器の差額が次年度に繰越となった.
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度細胞株の樹立ができなかったウズラ系統を培養に供試するため,昨年度よりも細胞培養を行う量が増えることが想定される.そのため,昨年度購入予定であったCO2インキュベーターを購入する.その他に細胞培養用の培養器および試薬,解析用の抗体の購入を予定している.また成果報告として論文の投稿と国内外における学会での発表を予定しており,投稿料と旅費をそれぞれ使用する.
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