研究課題/領域番号 |
26650077
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
瀬原 淳子 京都大学, 再生医科学研究所, 教授 (60209038)
|
研究分担者 |
佐藤 文規 京都大学, 健康長寿社会の総合医療開発ユニット, 特定助教 (10588263)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 細胞分化 / 増殖因子 / 神経分化 / ゼブラフィッシュ / ライブイメージング / ニューレグリン / ErbB |
研究実績の概要 |
脳の発達において、神経前駆細胞(NPC)は増殖し神経を産みだす。NPCの増殖の程度や神経産生のタイミングの制御が、脳の大きさや形の重要な要因となるが、そこに細胞外シグナリングが関与するのかどうか、それともどれだけ増殖して分化するかは、もっぱら神経細胞自律的に決まっているのか、このことは、このプロセスに関与する細胞外シグナルが同定されておらず、不明であった。本研究において我々は、脊椎動物の脳形成機構を探るため、ゼブラフィッシュ中脳視覚統合領域である視蓋の形成をモデルとして、この問題に取り組んだ。神経幹細胞、神経前駆細胞、神経細胞を可視化することによって、生きた胚の脳では、受精後ほぼ決まった時間に脳の基底側(外側)から細胞分裂を終えた神経細胞の産生が始まり、そこから脳室側(内側)に向けて産生された脳細胞が蓄積していくことを見いだした。さらに、神経前駆細胞のイメージングを繰り返し行うことにより、神経前駆細胞には、ふたつの分裂様式があることを見出した。ひとつは基底側・脳室側間でのエレベーター運動の後に脳室側で分裂するタイプ、もう一つは基底側の神経層の近傍sub-basal領域にあって、移動を伴わずに分裂するタイプである。後者の分裂だけが、神経細胞の産生につながること、そしてその産生がErbBシグナルに依存することを明らかにした。そして一過的に胚をErbBインヒビター処理することにより、sub-basal領域におけるNPCからの神経細胞の産生に、ErbBシグナルが直接的に関与することを示した。ErbBリガンドのNRG1 TypeIIのノックダウンにより神経細胞産生の抑制され、それはヒト 可溶型NRGを脳に注入することによって、ある程度回復させることができた。これらのことから、脊椎動物の脳発生における神経分化に、 NRG1-ErbBシグナリングが関与することが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は本研究において、ゼブラフィッシュの中脳視蓋を可視化することにより、神経細胞が個体の中でどのように分化・産生されるのかを検討し、それが、 きわめて規則的に、subbasal側で産生されることを示した。そしてほぼ計画通り実験を進めることができ、 ErbBシグナルインヒビターと アンチセンスモルフォリーノを組み合わせることにより、ニューレグリンーErbBシグナリングに依存して神経前駆細胞から神経細胞が産生されることを示すことができた。ここまでの結果を論文投稿中である。
|
今後の研究の推進方策 |
上記のように、これまでは、関与する遺伝子を示すのに、それらの遺伝子のアンチセンスモルフォリーノやドミナントネガティブフォームの発現、インヒビターなどを使用してきた。しかし最近、criper-cas9システムを用いてノックアウトゼブラフィッシュの作成が可能となり、我々の研究室でもその系を立ち上げることができた。そこで、今後は、ニューレグリン遺伝子のノックアウトゼブラフィッシュを作成して、その役割をさらに検討したい。また、ニューレグリンは膜型の増殖因子で、プロテアーゼによる切断制御を受けていることが示唆されている。そこで、それらのプロテアーゼの関与を示すことを計画している
|
次年度使用額が生じた理由 |
従来小型魚類を用いた研究では、遺伝子を アンチセンスモルフォリーノなどを用いた遺伝子発現抑制により解析してきた。昨年度繰越したのは、 最近確立されたcrisper-cas9システムを導入し、遺伝子の解析を遺伝子変異体の作成によって検討するという、より信頼性の高い実験系を取り入れたことにある。遺伝子ノックアウトゼブラフィッシュを得るには世代を越えてこれらの掛け合せをする必要があり、当初計画していた研究内容を今年度に繰り越して行う必要があった。結果として、現在6種類の ADAM プロテアーゼ欠損ゼブラフィッシュや増殖因子欠損ゼブラフィッシュの作成に成功または作成中である。本プロジェクトは、これによってより確実で、再現性の高い研究結果が得られる手段を得たことになる。 27年度はこれらを利用して、独創性の高い研究成果を目指すものである。
|
次年度使用額の使用計画 |
上述のように、繰り越した経費を用いて、ADAM プロテアーゼ欠損ゼブラフィッシュ・増殖因子欠損ゼブラフィッシュの作成・掛け合せ・解析を予定している。
|