細胞の極性は組織や器官の機能に必要であり、その破綻はヒト疾患の原因となる。研究代表者は、新規な細胞極性として、細胞キラリティ(左右に歪んだ細胞形態がその鏡像と重ならない)の存在を明らかにしている。この発見の発端となったのは、ショウジョウバエ胚の消化管において、上皮細胞の頂端面(内腔側)の形態が左右非対称になることであった。上皮細胞が頂底極性をもつことを合わせて考えると、この細胞の形態はキラリティ(細胞キラリティ)を示すことになる。他のグループの研究によって、細胞のキラリティは脊椎動物の培養細胞においても認められることがわかった。しかし、細胞キラリティが形成される機構の関しては、アクチン細胞骨格の構造の関与が示唆されている以外は、ほとんど理解されていない。そこで、本研究では、遺伝的改変が容易なショウジョウバエに由来する、培養可能な細胞でキラリティを検出し、このシステムを用いて細胞キラリティの形成機構を明らかにすることを目的とする。 平成27年度の研究では、平成26年度の研究で見出したショウジョウバエ幼虫のヘモサイトの細胞キラリティの性質について解析した。ヘモサイトの中心体をGFP-centrosomine1、核をRedStingerでそれぞれ標識し、核の中心を回転中心としたときの中心体の移動角度を経時的に計測した。その結果、野生型のヘモサイの中心体は、細胞を下から見て右回りに回転することがわかった。これまでの研究から、ショウジョウバエMyosin31DF(Myo31DF)の突然変異では、色々な器官の左右非対称性と細胞キラリティが鏡像化することがわかっていた。Myo31DF突然変異から得たヘモサイトでは、中心体の回転方向が逆転(左回り)することを明らかにした。本研究によって、ショウジョウバエの細胞キラリティがMyo31DFによって決められていることがわかった。
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