研究課題
本研究の目的は、イモリを用いた遺伝子コンディショナルノックアウトシステムを確立して、イモリの強力な再生能力が、如何なる遺伝子の機能により成立するのかを解明する基盤をつくることにある。さらに構築した実験系を用いて、心臓再生に対する心筋細胞の増殖の寄与を明らかにする。この目的を達成する為に、①コンディショナルノックアウトイモリ系統の作製と、その手法の効率化、②イモリゲノミックライブラリーとスクリーニングシステムの構築、③細胞増殖の再生時期特異的阻害および活性化により再生への影響を解析する実験を計画した。今年度は細胞増殖に不可欠な細胞周期制御因子であるCDK1のコンディテョナルノックアウトに向けて、イモリCDK1遺伝子のゲノム配列を切断する為の人工酵素(TALEN)の作製と、TALENによる切断条件の決定を行った。この結果をもとに、コンディショナルノックアウトイモリの作製に着手した。加えて、もう一つの標的遺伝子であるCyclin D1に付いても、遺伝子破壊に必要なゲノム配列の情報を取得できた。さらに、組織特異的なプロモーターが利用できない細胞での組換え誘導が必要になった場合の対応として、IR-LEGO(赤外レーザー利用)法による局所的な遺伝子の発現誘導の条件検討、及び必要となるHSP-CREトランスジェニックイモリの作製を行った。これらの研究成果に関連して、原著論文を3報を発表、1報が投稿中である。また、総説論文5報の発表と、著書(分担)の執筆1件を行った。学会等の発表を11件(うち招待講演3件を含む)行なった。
2: おおむね順調に進展している
本研究の計画に基づき実施された研究項目のうち、コンディショナルノックアウトイモリの作製については、細胞増殖に不可欠な因子であるCDK1のコンディテョナルノックアウトに着手した。その為に、使用するイモリコロニー内の遺伝子多型パターンの解析、CDK1遺伝子のゲノム配列を切断する為の人工酵素(TALEN)の作製と、作製したTALENによる切断条件の検討を行った。この結果をもとに、loxP配列の挿入によるコンディショナルノックアウトイモリの作製を開始した。当初はイモリゲノム配列の情報を効率的に取得する目的で、大腸菌人工染色体(BAC)を用いたイモリゲノミックライブラリーの作製を計画していた。しかし、ゲノミックウォーキング法とインバースドPCR法、およびゲノミックサザンハイブリダイゼーション法を組み合わせることで、ライブラリーを作製せずとも、目的とするイモリのゲノム配列を得ることが可能になった。この方法により、遺伝子破壊の標的であるCDK1とCyclin D1のゲノム配列情報を取得できた。さらにIR-LEGO(赤外レーザー利用)法による局所的な遺伝子の発現誘導については、イモリに対する適切な条件の決定と、今後の解析に必要となる熱誘導型のCRE遺伝子(HSP-CRE)遺伝子トランスジェニックイモリの作製を行った。この過程でイモリの心臓再生機構の研究に熱誘導型のCRE遺伝子(HSP-CRE)を使用する際には、非特異的な反応をできるだけ押さえることができる熱ショックプロモーターの使用がより望ましいことが明らかとなった。これらの結果により目的の達成を確実にする為の手法の確立、試料や試薬などの準備を進めることができた。従って、計画は概ね順調に進展していると言える。
本研究の進行状況をふまえ、以下のとおりの方策によって引き続き研究の推進を計る。最初に、昨年に続いてloxP配列の挿入によるCDK1コンディショナルノックアウトイモリの作製を行う。さらにそのイモリを用いた心臓再生実験を行う。現在までにCDK1破壊用のTALENとloxP挿入用のオリゴDNAあるいは2本鎖DNAをイモリ卵に共導入することでloxP配列の挿入を試みてきたが、イモリのCDK1遺伝子座に対するloxP配列の挿入は確認できていない。この課題を解決する為に、広島大学のグループによって報告されたTALE-PITCH法を用いる計画である。この方法では挿入用に設計された専用のベクターを利用することでより確実なloxP配列の挿入が期待できる。これにより問題点を解決し、研究を推進する。加えて当研究室の研究成果により、イモリの心臓に於いては分化した(既存の)心筋細胞が増殖をすることで心臓再生が成立することが明らかとなった。これにより、本研究の目的の一つである心臓再生に於ける細胞増殖の役割について研究する際、幹細胞等ではなく、既存の心筋細胞を重点的に研究することの重要性が確かめられた。さらに、IR-LEGO(赤外レーザー利用)法による局所的な遺伝子の発現誘導の条件検討実験から必要性が示された非特異的な反応が起こらない熱ショックプロモーターについては、既に魚類等で報告されている人工合成型の熱誘導プロモーターをイモリに用いることで、時期特異的なCRE遺伝子の発現誘導が期待できる。これらを確実に推進することにより、研究目標の達成を目指す。
平成26年度に配分された予算総額に基づき、初年度は研究推進に不可欠なトランスジェニックイモリ個体の作製に必要な予算を確保、使用した。研究の進展に伴い遺伝子型を調べる手法が効率化できたことで、使用する試薬やプラスチック器具の種類や量が減少した。また、イモリを大量に飼育できる設備の導入費用は高額であるため、実際に飼育するイモリの数が増加する次年度に関連する予算を使用する方がより効率的であると判断された。
27年度はコンディショナルノックアウトイモリ個体の作製を重点的に行う。コンディショナルノックアウトの作製にあたっては、様々なパターンのオリゴヌクレオチドの合成を外部に依頼する必要があり、その為の予算として活用する。研究の進展に伴い大量に作製されるイモリを飼育するための設備導入の必要性、およびイモリ個体の管理に関わる支出の増加が見込まれるため、平成27年度に交付予定であった予算と併せて、研究の推進に向けて有効に使用する計画である。
すべて 2014 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 3件) 備考 (2件)
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