研究課題/領域番号 |
26650085
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
村田 麻喜子 杏林大学, 保健学部, 講師 (00276205)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 有性化転換 / 再生 / 分化 |
研究実績の概要 |
ヤマトヒメミミズは成虫でも体長10~15mm程度の小型のミミズである。ヤマトヒメミミズは単一個体が7~10断片に自切し、7日程度完全個体に再生する無性生殖で繁殖するが、個体密度などの環境条件により有性化して虫卵を産卵する。2つの繁殖方法の使い分けは外的環境に応答したヤマトヒメミミズの生存戦略ではあり、特異的なシステムであることが予想されるが、再生課程においてどのようにして無性化と有性化が切り換えられるのか、切り換えのシグナルはどのような機構によるものなのか大変興味深い。 無性生殖のなかで再生した個体を低密度環境下で高栄養価の飼料を与えて飼育すると再生過程で20%の個体で生殖器の分化が観察される。このとき、生殖細胞の分化に関与すると言われるVASA遺伝子の相同遺伝子Vlg1及びVlg2の発現量に変化がする。本研究ではVlg1及びVlg2以外にnanos遺伝子はPiwi遺伝子など他の種において生殖器に特異的な発現が知られているこれらの遺伝子と相同な遺伝子を単離し、これらの遺伝子をVlg1およびVlg2と共に有性化の指標として用いる。Vlg1及びVlg2の発現を指標に有性化誘導の条件を検討した上で、有性化を誘導個体から抽出した転写産物を出発材料にcDNAライブラリーを作成し、有性化関連遺伝子の特定を試みる。 現時点でヤマトヒメミミズのヌクレオチド配列の情報は乏しく[Nucleotide (236), EST (356)]、さらなる網羅的情報の拡充が必須である。これまで、自切再生過程の各段階で有意に発現する遺伝子を特定するために各段階の転写産物よりcDNAライブラリーを作成しサンガーシークエンス解析を進めているが、また本研究ではde novoシークエンシングにいる網羅的解析を部分的に導入しすることでより多くの情報から有性化に関連する遺伝子の特定することで、生殖機構の転換を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
大学組織の大幅な改編などの影響で共通機器を含めたの実験機器類など利用環境が申請時とは大きく変化した。その結果、自動分注システム等を利用した多検体の処理を利用した作業計画が困難となり、サンガーシークエンス解析が予定通りに進めることが出来なくなった。しかし、委託による次世代シークエンス解析の費用が引き下げられたため、有性化に関連する遺伝子の網羅的検索の一部について次世代シークエンスを導入した。断片化直後から有性化を誘導した個体由来の転写産物についたde novoシークエンス解析を行ったところ、モデル生物で性分化や発生時に発現が知られる遺伝子と相同な遺伝子と推定されるものを見出した。サンガーシークエンス解析で得られた候補遺伝子を含めこれらの候補遺伝子の発現時期や有性化との関係を明らかにする。 Vlg1およびVlg2遺伝子発現を指標とする有性化誘導の最適条件の検討について、一定温度下での飼育として飼料となる粉末状のオートミールを基本に培地等を割合を変えるなどの検討を行ったが、これまでの有性化条件よりも最適な条件は得られていない。現在は飼育温度を変えるなどより詳細な飼育管理温度検討中であり、引き続き最適化を目指す。 Vlg1およびVlg2のsiRNAによる阻害実験は着手できていないが、実験環境を整備を継続する。
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今後の研究の推進方策 |
Vlg1およびVlg2遺伝子発現を指標とする有性化誘導の最適条件の検討について引き続き検討する。現在はVlg1およびVlg2遺伝子の発現を有性化が誘導されていると仮定し、有性化と関連する遺伝子の特定を行っている。しかし、形態観察から生殖器を確認出来る個体数は全体の25%程度であり、少なくとも60~80%以上の個体が有性化した条件が望ましいく、再現性のある条件設定を目指す。 Vlg1およびVlg2遺伝子の他に他の種において性決定に関与するSry遺伝子や生殖器での特異的発現が知られているNanos (Nanog)遺伝子、Piwi遺伝子など既知遺伝子の相同遺伝子を単離して、新たなマーカーとする。有性化したヤマトヒメミミズ成虫の性腺が位置する7節-8節でPiwi遺伝子が特異的に発現することが知られている(Tadokoro T. et. al., Curr. Biol. 16:1012, 2006)。既にショウジョウバエのNanog (Nanos) 遺伝子と相同な遺伝子の単離を試みている。 極めて遺伝情報の少ないヤマトヒメミミズではde novoシークエンス解析および既知情報のアノテーション解析は目的の候補遺伝子を見出すのに有効な手段となる。有性化を誘導した個体の転写産物を用いてde novoシークエンス解析および既知情報のアノテーション解析を行った結果、生殖器の分化に関与するSry遺伝子との相同性が示唆される候補遺伝子などが複数見出すことが出来た。サンガーシークエンス解析で得られた候補遺伝子を含めてこれらの遺伝子がどの時期に発現するのか、また有性化誘導との関連性について個別に検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬等の消耗品の購入に支出を予定していたが、適当な物品を購入することが出来なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
カスタムオリゴ合成などの消耗試薬品費に当てる。
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