研究課題
本研究は、クラミドモナスの走光性の符号(正か負か)が、細胞内レドックス(酸化還元)状態によって調節を受けることに着想を受けたものである。細胞内レドックス状態は通常は「ほどほどに還元的」な状態に保たれるが(レドックス恒常性と呼ばれる)、さまざまな生体反応に応じて酸化的になったり、過剰に還元的になったりと変化する。植物細胞において、それをもっとも大きく変えるのは光合成活性であると考えられる。最近我々は、緑藻クラミドモナスが、細胞内が酸化的になると正、還元的になると負の走光性を示すことを見出した。このことは、走光性異常変異株の中に、従来得られなかったタイプの光合成ミュータントが潜んでいる可能性を示唆している。本研究はこれを追求することを目的としている。H26年度は、クラミドモナス野生株に対し、紫外線照射によるランダム変異を導入し、通常正の走光性を示す活性酸素薬剤処理、負の走光性を示す活性酸素消去薬剤処理を行い、野生株と逆の挙動を示すミュータントのスクリーニングを行った。その結果、4種の新奇ミュータントを単離することができた。しかし、そのうち2種は鞭毛の運動異常株であり、残りの2種については眼点形成異常株であることが判明し、本研究の調査対象からは外した。それを受け、年度末に、薬剤耐性遺伝子の挿入による新たな変異株群を作成した。その結果、運動性にも眼点形成にも異常の見られない、3種の新奇ミュータントを得ることができた。これらは、本研究で対象とする「光合成に異常があるために走光性符号が異常になる」ミュータントである可能性が高い。現在、薬剤耐性遺伝子をマーカーとして遺伝子クローニングに取り組んでいる。
2: おおむね順調に進展している
新しいタイプの走光性ミュータントが順調に単離できており、それはH27年度も増えるはずである。本研究課題において重要なのはそれが光合成ミュータントであるか否かであり、その検証はH27年度前半に行う予定である。
今回単離した3種のミュータントは、運動性や眼点異常は確かにないが、同時に、光合成ミュータントに見られると期待される色素形成や増殖速度の異常も見られない。遺伝子クローニングとともに、独立栄養培養と従属栄養培養のときの細胞増殖の差など、光合成ミュータントに見られるような表現型を細かに検証する。同時に、新たなミュータントのスクリーニングも精力的に行う。
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Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻: 111 ページ: 9461-6
10.1073/pnas.1403101111
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